ザスパ草津2009。開幕3試合から見えるもの。

相変わらず公私多忙で、久方ぶりの更新となってしまい、申し訳ありません。久しぶりの更新は、もちろん開幕三連勝という過去最高のスタートを切っている我らがザスパ草津について。監督交代、主力選手の入れ替えなどの懸案事項はどうなったかを中心にして対熊本・福岡・横浜の3試合を記していきたいと思います。まずはオフシーズンに発生したチームの懸案事項からくる注目点についてです。

ザスパ草津2009年チームの注目点
1.監督交代。内部昇格とはいえ、新人佐野監督は開幕にどんなチームを仕上げてくるか。
2.島田、鳥居塚、秋葉忠という中盤の主力選手の移籍や引退。新加入選手と底上げで穴は埋まるのか。
3.昨季終盤の大量失点。ペ・スンジンの移籍の影響は。
4.ボールポゼッションは出来てもフィニッシュに繋がらなかった昨季。得点への工夫は。

それぞれが独立しているわけではなく、サッカーの攻守は表裏一体と云うとおり、相互に絡み合うテーマなんですが、明確にするため大きく4つに分けました。では1番から。2番にも関わります。

1.監督交代。内部昇格とはいえ、新人佐野監督は開幕にどんなチームを仕上げてくるか。
→昨季までの戦術を継承しながら、より攻撃的にシフトした。完成には到っていないものの、公式戦で勝敗を争うには充分な仕上がり。さらに伸びしろも期待できる。

専門誌のキャンプ仕上がり度チェック記事で他クラブ(大体70〜80%)に劣る55%と書かれていたり、先日のJ's GoalのJ2日記、水戸担当の佐藤記者によると、*1

【J2日記】水戸:草津の憎いあんちくしょう(09.03.23)
(前略)西都キャンプに取材に行った際、上向かないチームの仕上がり具合を目の当たりにした伊藤氏が「今年はダメだー」と愚痴っていたのを聞いたときも気持ちよかった。
ところがどっこい草津は最高のスタートを切っている。はっきり言って悔しいのだ!(後略)

などと綴られたりされているので、中盤のボールポゼッションを司っていた島田・鳥居塚・秋葉の穴はやはり大きく、GK本田とSBチェ・ソンヨンの負傷なども加わって、順風満帆のキャンプではなかったようです。内部昇格とはいえ監督になれば練習の仕方を変えた部分もあるでしょうし、サッカーの限らず初めて取組むことは、慣れたやり方より時間がかかってしまうのは止むを得ないこと。福岡戦からSBで先発している小池にしても、福岡戦の一週間前からSBの練習を始めたそうなので、未だ佐野監督の中でも試行錯誤が続いている事も窺えます。
それでも開幕三連勝という最高の成績を収めているのは、開幕に必要充分のチーム力を形成してきた証です。その中でMF櫻田、SB佐田、CB藤井、FW都倉といった、昨季なかなか結果の出せなかった選手たちが勝利に大きく貢献しているのも単なる戦術の継承、植木さんの貯金だけの結果ではない、佐野監督の手腕であると思えます。
新人監督ゆえ長いシーズンの戦い方や、サブ含めたチームのターンオーバーやブラッシュアップなど佐野監督自身も初めての仕事を経験していくことになると思いますが、大きな期待を込めて応援を続けたいと思います。
後付け加えるならば、開幕3試合中2試合を1人の交代もなく、佐野監督は試合を終えています。これは3試合全てでチームが先制点を挙げ、1度も追いつかれることがなかったこともあり、サブメンバーとしてベンチ入りしているFW後藤、MF玉乃といった攻撃的なメンバーを投入する機会が薄かったとも考えられます。今後はリードされた展開でどう交代選手を用いるか、そのあたりも注目となるのではないでしょうか。

2.島田、鳥居塚、秋葉忠という中盤の主力選手の移籍や引退。新加入選手と底上げで穴は埋まるのか。
→廣山、熊林、松下、櫻田の構成でほぼ補え、攻撃的な姿勢が強まった。ただ層は薄くなってしまっているのでサブメンバーの奮起が重要に。

06〜08年の植木監督時代、島田・鳥居塚・秋葉忠の3選手それぞれが中盤を指揮する存在でした。その3人が一度にいなくなる事態は、ザスパ草津の財産であるボールポゼッションの継続を危うくするもののとも思われました。
しかし開幕してみると、廣山・熊林・松下・櫻田の4人で構成された中盤は試合をコントロールするのに充分な支配力と新たな魅力を発揮します。昨季もレギュラーの松下は従来の縦へのフィードに、秋葉忠のように左右への配球と大きなサイドチェンジを多く織り交ぜるようになり、櫻田と共にこの秋葉忠の役割を引き継でいます。
熊林は昨季、左SH島田と組む右SHでした。島田共々2列目の役割であるパスの意識が高く、直接得点に絡むことは少ないダブル司令塔としてプレーしました。*2しかし今季は縦横に走り回る運動量とプレーエリアの広さはそのままに、よりゴールに近い位置での積極的な攻撃参加が目立っています。ただ今季右SHに入る廣山が1.5列目的なプレーを行うので、左SHに移った熊林がペナルティエリアまで繰り返し進んで攻撃する必要はなく、過度の攻撃参加が求められていないことも熊林のプレースタイルに合って、プラスに働いていると思われます。今季のSHコンビのほうが、攻守全体のバランスとしては昨季に勝るのではないでしょうか。
櫻田も鳥居塚から背番号と共に、そのスタイルまで引き継いだかのようなプレーで、07年の活躍以上の期待を持たせてくれています。昨季は島田・鳥居塚・熊林などを押しのけるまでのプレーを見せられず、不本意なシーズンだったと思われますが、今季は持ち前の豊富な運動量で攻撃参加が増し、さらに秋葉忠ばりのサイドチェンジを度々披露し、両SBの攻撃参加をより加速させています。これは視野の広さと落ち着きがないと出来ないプレーなので、確かな成長が窺えると思えます。
そして廣山。この選手が、今季の中盤の脅威度をはね上げています。そのドリブルはボールキープにも1.5列目としての攻撃参加にも用いられ、シュートはもちろんFWへのスルーパスも披露。加えて左右両足ともに精度の高いキックを蹴れ、1対1でも負けない守備力を発揮しています。もちろんキープ力もあります。廣山は島田の穴をほぼ埋めつつ、加えてチームの得点力を上げ、中盤の守備力も上げています。さすが元日本代表というところでしょうか。よく草津に来てくれたなあ、と感謝するほかありません。また廣山が、島田の担っていた仕事をこなしてくれているため、監督も周囲の選手も昨季の戦術を踏襲しつつ、新たな戦術に取り組めている部分もあると考えます。ただただスゴイ人ですね。ただ「ほぼ埋まった」と書いたのは、島田最大の魅力であるキックスペシャリストの部分は埋まっていないためです。仕方ないんですけど。このところは、既に試合で得点に結びついていますがセットプレーの工夫と、MF陣の奮起に頼ることになりそうです。
昨季と今季の中盤を比較すると、昨季は島田をはじめ、それぞれの役割が明確な中盤だったと考えられます。今季は廣山の加入と、MF陣の奮起・成長により、それぞれが色々な役割を果たす構成になっているので、相手チームにとっては厄介になったと思えます。今までは明確に島田という司令塔がいたのですが、今季は特定の1人に人数をかけて封じても草津の攻撃が止まるわけではない。今季もここまで廣山頼みで勝ってきたわけではないですからね。佐野監督の「全員攻撃・全員守備」が体現している部分だと云えると思います。
ここまで記すと問題が完全に解消したかのように見えますが、レギュラーの穴は埋まったものの、サブはどうなのか、というところが出てきます。廣山・熊林・松下・櫻田がカード累積で出場停止になったときなど、誰がその穴を埋めるのか。玉乃、山崎、佐藤大基、佐藤穣、秋葉信らの頑張りがシーズンラストの順位を上げるか下げるかを決めることになると思っています。短期的には中盤の底を支えるアンカー松下を一番欠きたくないですよね。CB尾本、藤井を負傷で欠いている現在では、喜多を前に上げられないですし。少なくとも藤井の復帰までは、松下のカード収集が進まないことを祈るばかりです。

3.昨季終盤の大量失点。ペ・スンジンの移籍の影響は。
→セットプレーで簡単な失点など不安はあるものの、相手サイド攻撃をはね返し続け、ラインも高く保って中盤を助けている。尾本・藤井の負傷の影響が心配。

三連勝のいづれも一点差、横浜戦で見せたセットプレーのモロさなど不安はありますが、熊本戦では再三のオフサイドトラップで攻撃を封じていますし、福岡の高橋・大久保の強力2トップをよく抑えました。横浜戦では藤井の負傷を受けて初出場した喜多がハイボール処理とバイタルエリアの守備に素早く対応し、前半の支配された流れの中でも決定機を与えなかったことが、前半最後の2得点に繋がったと思います。昨季ペ・スンジンバイタルエリアの相手ポストプレーの早めの潰しで草津の好調期を支えてくれましたが、喜多も田中も今の調子で頑張って欲しいところです。昨季終盤にはラインごとズルズル下がる守備でチームが間延びしていましたが、ここ3戦はラインアップで中盤を助け、ほぼ未経験のSB小池のサイドエリアの守備フォローもスムーズに。テラもよく抜かれるから慣れてるんだよねえ。宇留野は怖かったねえ。ずっとHonda FCにいて欲しかったのにねえ。尾本と藤井の負傷復帰まで、もう誰もケガしないように。また今後、セレッソ大阪のような昇格有力候補との対戦でどのくらい通用するか、でしょうね。

4.ボールポゼッションは出来てもフィニッシュに繋がらなかった昨季。得点への工夫は。
→攻撃人数の増加と、守備を整わせないうちにゴール前に詰めるスピードある攻撃が実現できている。MFの攻撃参加は押し込んだ状態での切り札にも。

昨季まではカウンターのチャンスでも一度中盤にボールを収めて攻撃を展開していたため、植木さんからも「もう少し攻撃に緩急をつけないと」というコメントもあったと記憶しています。ポゼッションはただ攻撃のためではなく、ボールを保持している限り相手の攻撃にはならないという守備的要素もあるので、一概に点がとれないからダメ、ということではありませんが、相手を自陣に押し込めてから左右にボールを振っても相手守備も人数が揃っているため、そうそう点はとれませんでした。昨季でこういう状態から点がとれたのはFC岐阜戦の1ゴールくらいしか記憶にありません。
●2008 J2:第14節 【 FC岐阜 vsザスパ草津

10本以上のパスを相手に一度も奪われることなく繋いでシュート&ゴール。ここまでキレイに決めるのは難しいですね。昨季の草津は、エース高田に加えて後藤の成長でFWの得点は申し分なかったものの、前述のとおり中盤の得点に乏しく、相手からすると守りやすかったのではないかと思います。左右にボールを何度振っても、最後はFWに合わせてくる。最悪そこだけキチンとケアすれば、簡単に失点しないわけですから。中盤もゴール前に飛び出す回数は少なく、ミドルシュートもまず入らない。昨季はMFのミドルシュートでのゴールは島田が1点、松下が1点だったと思います。
●【2008 J2:第15節 ザスパ草津 vs 水戸ホーリーホック

●【J2:第32節 草津 vs 岐阜】

シマはやっぱり最高だ(涙)こういうシュートもそうそう入らないですよね。やっぱりゴールに近いところからシュートしたい。今季の入団記者会見で植木GMから「中盤から得点がとれる選手を補強した」という主旨のコメントがあったと思いますが、これが廣山と玉乃です。廣山は早速望まれた形で1ゴール決めてくれています。
●J2 2009 第2節 ザスパ草津GOAL3

右からきたボールスピードを殺しつつ殺しすぎずにそのまま流す。スピードをつければ枠に入らない角度ですし、スピードを落としすぎれば相手に対応されてしまいます。素晴らしい技術です。既に触れていますが、櫻田のサイドチェンジに佐田のクロスと、昨季の不満をぶつけるかのような活躍も確認できます。
また動画はないのですが、熊本戦後半に、相手を自陣に押し込んだ状態で新たな攻撃のヒントがありました。熊林が左サイドでボールキープするものの、バックパス。攻めあがっていなかった寺田までボールが戻ってしまうのですが、その間に櫻田がペナルティエリアに飛び込み、そこへパス。得点に繋がらなかったのですが、MFの積極的な攻撃参加が、ボールは下げて相手をつり出しつつ、攻め駒が1人上がるという縦への揺さぶりが使えたシーンでした。
開幕戦でSBの攻撃参加が乏しかったことは、佐野監督の不満としてコメントがありましたが、中盤が頻繁に攻撃参加する今季、SBまで闇雲に攻撃参加してしまうと守備の枚数がとても危険でもあります。こういう形で押し込めた相手にプレッシャーを与えても面白いのではないかと思います。守備からすれば誰がゴール前にすっ飛んでくるか判らないのが一番怖いわけですから。開幕から3連勝の草津ですが、まだまだ攻撃への工夫も伸びしろも見えています。ずっと勝ち続けられるほど甘くはないので、試合をこなしつつ、さらに強くなって欲しいですね。
後、特筆すべきはFW都倉の好パフォーマンスです。2ゴールももちろんですが、昨季途中から加入したころは、空中戦ではファールばかりとられてしまっていました。ところが今季はハイボールの競り合いで逆に相手にファールさせる場面が多く、格段の進歩を遂げています。熊本・福岡戦で草津が試合の流れをつかむ大きなキッカケとなりました。ボールポゼッションに並ぶくらい有効な都倉のポストプレーですが、横浜戦ではCB戸川・早川とのマッチアップは過去2戦のようにいきませんでした。都倉のポストと空中戦の優位がどの相手くらいまで通用するのか。これもこれからの注目だと思います。
全体の結論とすれば、今まで以上に楽しみなシーズンになる、だと思います。まずは今夜のアウェイFC岐阜戦、どんな攻守が見られるか、中2日の連戦ゆえのパフォーマンスの低下、起用されるサブメンバーのパフォーマンスが新たな注目だと思います。

*1:http://www.jsgoal.jp/news/jsgoal/00079625.html

*2:島田裕介は08年5ゴール。FK直接が2点、PK1点、ミドルシュート1点、ペナルティアーク付近からシュート1点。熊林は08年2ゴール。FK直接1点、ペナルティアーク付近からシュート1点。