恋愛寫眞、マヨヌードルより強烈な味。

SH772004-05-24

感想を残しておこうと思った映画シリーズ、その8。

恋愛寫眞 Coollage of Life(2003/日本/111分)
http://www.c-o-o-l.jp/index2.html
監督:堤幸彦
脚本:緒川薫
撮影:唐沢悟
写真:斎藤清貴
美術:佐々木尚
音楽:見岳章/武内亨
出演:広末涼子松田龍平小池栄子山崎樹範西山繭子高橋一生
コピー:死んだはずの彼女から、手紙が届いた。消印はニューヨーク。

●あらすじ
舞台は現代の日本とニューヨーク。
駆け出しのフォトグラファー誠人(松田龍平)の元に届く一通の手紙。それは3年前、大学時代に別れた静流(広末涼子)がニューヨークから送ってきたものだった。フォトグラファーとして成功し、個展を開くことになったので見に来て欲しいと。かつて自分が写真を教え、静流の才能と成功を認められずに別れた誠人は、その手紙を捨ててしまう。しかし同窓会で静流が殺されたというニュースを聞き、そのままニューヨークへ旅立つが・・・。

ケイゾク」「トリック」「池袋ウエストゲートパーク/IWGP」で知られる堤幸彦監督の作品。この監督は、どんな定番料理でもなにかしら一風アレンジした創作料理にしなければ気が済まない料理人なんだと思う。

ところがこの作品では、誠人の大学生時代の恋人との想い出、そしてニューヨークでの経験から得た成長がストーリーの中心に据えられ、一貫して美しい写真が物語を彩り、ラストで満足を得られる良作となっている。独特のアングルとカットで表現される誠人の心象、時間の流れを表す工夫、ミカンで始まる同棲と、破局の時に無造作に置かれた空のミカン箱。堤流の表現が恋愛映画というジャンルの作品にも効果的に活かされることを証明していると云えるだろう。

しかし、毎度おなじみのプロット破綻と小ネタも散見するが、これも物語の雰囲気をギリギリ壊さない範囲で収まっており「このソバ、わざわざ創作料理にしなくてもと思うけれど、これはこれでとても美味しいよ」と云える出来。上質の恋愛映画を真っ向勝負で作れると証明しており、作品の雰囲気を壊しかねないとしても、どうしてもアレンジしなければならないのだろう、この料理人は。*1

ほぼ唯一かつ致命的なアレンジが後半に登場する小池栄子で、上質のソバにかけた特濃トンカツソースの最悪かつ強烈な味。物語終盤にはまた美味しいソバを口に出来るのだが、さっきのソースが口に残ってしまい、料理全体の評価を下げている。これはもうマヨヌードルの比ではない。彼女の名誉のために云えば、古今東西のどんな名優が演じてくれても「アイツは無用。むしろ邪魔。」と云われるに違いない設定とヒドイ役回りであり、貧乏くじを引かされたとも思えて、少し気の毒。棒読みの台詞と感情表現の未熟までフォローする気にはなれないが。*2

この部分の最悪な印象を差し引いても、プロ写真家の斎藤清貴が数万枚撮った中から選び抜かれた日本とNYの数々の美しい写真は、写真というジャンルの芸術を素直に良いものだと思わせてくれるし、その写真を鑑賞するだけでもこの映画を観る価値がある、というところにまで引き上げている。また、父親とは違った可能性を持つ俳優であると感じさせてくれる松田龍平の「静の演技」の魅力、広末涼子の被写体としての完成度と女優としての成長。ストーリー構成と作品全体の雰囲気、救済と成長のラストシーン。主人公二人の魅力と彼らの今後の可能性まで見せてくれた「上質の創作ソバ料理」ながら、トンカツソースが強烈すぎてそのソースの感想が真っ先に出てしまうのだ、どうしても。残念ながら。

小池栄子のパートだけ記憶を消すことが出来るならば「ここ5年間で観た中で最高傑作」と評価できるほど美しく好きな作品。神様なんとかなりませんか>忘れたい記憶。

*1:それでも日本人が好きだという牧師が誠人を連れて行ったバーに飾ってあった赤木圭一郎の等身大ポスターは許す。トニーだトニー。

*2:今、水10での演技を見ると彼女の上達が判る。頭が良い人と思うので、この映画での自分の浮き加減もわかっただろう。その後おそらく研鑚があったのだと考える。