群馬県のスタジアム問題、その4。高崎競馬場の存続問題。

陸上トラックのようなダートコースです

なにやら連載コラムの態になってきた「群馬県のスタジアム問題」。id:toroneiさんのダイアリー3月30日分でとりあげていただいたので、今回はそのリファを兼ねて問題をもう少し詳しく。
まず高崎競馬場関連で、自分の「その1、新設案」で近年赤字続きの高崎競馬場(用地)を利用できないか、という群馬県の公式HPに寄せられる新設案に諸条件から反対しました。*1そして競馬方面に詳しいid:toroneiさんが色々指摘してくださっているのですが、いやー、実はそれらのお話でほとんど「高崎競馬場をめぐる行政の問題」が説明されてしまうのですよね。全国の地方競馬共通の悩み・問題なのでしょうか。関連した部分を引用させていただきます。

いや本当にヒドイ話しなんだけど、まず完全にサッカー側の方であるid:SH77さんが反対を表明してくれるのは非常にありがたい限りです。
その上でまず競馬側の人間としてサッカー側の方に解説しておくべきことがあると思うのでお話ししておきますと、まず競馬場はJRAも含めて多くが貸土地であることが多く、潰したからといってその空き地を自治体が自由に使えるとは限らないのです。
高崎競馬場の場合は複数に渡っている場合は、もしかしたら高崎競馬で馬主になっているような人もいる可能性があり、下手をしたら競馬場はなくなったけど、サッカー場も出来ずに空き地が出来てしまう危険性も指摘しておきます。
競馬場の赤字の問題はこれは競馬ファンならある程度の見識があればみんな知っていることなんですが、地方競馬はどこの競馬場もこれまで何十年にわたって、何百億という黒字を地元自治体に落としてきました。それをここ数年の数億、数十億の赤字を理由に廃止するのは、関係者のこれまでの努力を考えればあまりにもご無体ではないかという点、JRAと違い地方競馬は黒字時代もそのほとんどを地元自治体に持って行かれて、競馬のためにお金を使うことが出来なかったのが、企業努力をしようにも出来ない、また厩舎関係者などはともかく競馬場の職員は全員地元自治体からの出向で競馬場のことを考えるスタッフがいなかったということが、近年の赤字の理由であることは指摘しておきます。

さらに以下のリンク先、上毛新聞が昨年末の10回にわたる連載記事「岐路に立つ高崎競馬」でこの問題の詳細が判ります(http://www.raijin.com/news/kikaku/keiba/index.htm)。赤字問題の部分の骨子は以下のとおり。

四十数億円の累積赤字を抱え、厳しい経営状態が続く高崎競馬有識者らで組織する同検討懇談会は今年四月、この二年間で経営が改善されなければ廃止すべきという報告書を提出、県競馬組合議会もその趣旨を了承した。(記事冒頭)
高崎競馬の発売収入総額は、一九九〇年度の約二百四十五億円をピークに毎年減少。九九年度に初めて百億円を割り、昨年度は場外発売を含め約五十一億円にまで落ち込んだ。このため、累積赤字額は九二年度から年々膨らみ、昨年度までに四十四億円を超えた。
この四年間の単年度収支は、いずれも七億円以上の赤字ペースで進んでおり、本年度末の累積赤字は五十億円を超す公算が大きい。本年度の発売目標額は約五十一億円を見込んでいることから、累積赤字が年度発売額を上回る可能性もある。(第2回・累積赤字と発売額)

これに対して、群馬県知事は。

今年四月二十八日、県庁で定例記者会見に臨んだ小寺弘之知事の表情は苦渋に満ちていた。
「しかるべきときに、しかるべき判断をしていかなければならない」と、高崎競馬の廃止示唆とも受け取れる発言をする一方で、廃止に伴う失職者の気持ちをおもんぱかったのだろうか、「できれば維持したい」と苦しい胸の内を吐露した。
この日は同時に、県が設置した高崎競馬検討懇談会の報告書が知事に提出された。同懇談会は昨年二月に設置され、これまでに八回の会合を重ねてきたが、最悪の場合、二年後に廃止すべきという結論に達していた。民間懇談会の提言はいわば「県民の声」。競馬に対する小寺知事の個人的な思い入れ*2とは裏腹に厳しい内容だった。(第1回・厳しい県民の声)

県の担当部署、農政部は。

このボーダーライン(上記紹介済みの、累積赤字が年度販売額をこえてしまうこと)について、県農政部の幹部は昨年十一月、県議会決算特別委員会で「大きな考え方をする時期」と答弁している。この節目を決断の目安にしている他の地方競馬もあり、高崎競馬の存廃問題は今後、この数字をたたき台にして論議されそうだ。
ただ、そうした答弁とは逆に、県競馬組合幹部は「あくまで理論上のこと。高崎競馬がこれまで県と高崎市などに配分してきた約百八十億円を考えると、累積赤字だけで廃止とはならない」と話し、今後の経営改善に期待を寄せる。(第2回・累積赤字と販売額)

「改善がなされなければ廃止」との提言ですが、知事は「存続できるなら、そうしたい」が基本方針。id:toroneiさんご指摘のとおり、近年の赤字は問題視されますが、今まで百八十億円の配分金があったことも紙面で触れられており、これは経済面で語る上で充分に反論足りえますし、考慮すべきものでしょう。これに対して、ご当地の高崎市長は。

県競馬組合の副管理者の一人、高崎市の松浦幸雄市長は、以前から「多額の累積赤字が生じる競馬を引っ張ってきたのは県の責任」と不満を漏らす。
松浦市長が廃止を主張するのは、多額の累積赤字をめぐる処理問題を踏まえてのこと。高崎競馬は九六年度、それまでの積立金(施設整備基金)が底を突き、九七年度以降は次年度の予算から前倒しする「繰り上げ充用」を実施している。
同市は「施設整備基金が残っている段階から、(競馬は)いらないと言ってきた」と説明。累積赤字の負担についても消極的な姿勢で、高崎競馬について「運命共同体」とする県とは一線を画す。

食い違う県と市の方針。近年つづくの赤字と今までの莫大な配分金。地域社会へ貢献した配分金は小中学校などの公共施設拡充にも役立っており、経済面だけで論じる場合でも、それぞれの立場からの意見の相違、またそれぞれに説得力があります。たしかに高崎競馬が延々赤字運営を続けるわけにもいきませんが、なぜ高崎市は廃止論側なのでしょうか。それについては以下のとおり。

跡地利用について地元の高崎市は積極的だ。毎年、競馬場とその周辺について「群馬の玄関口」にふさわしい開発に取り組むよう県に施策要望。JR高崎駅東口一帯の再開発構想に弾みがつくと期待を寄せる。(第10回・素朴さに経済の壁)
しかし、競馬場用地は県有地が56%と多いが、その一方で民有地が35%を占める。県競馬組合と高崎市の所有地を合わせても一割に満たない。競馬の存廃問題そのものが進展しない限り、具体的な青写真を描くのは困難とみられている(同じく第10回より)

高崎競馬場のおかれた現状の把握で長くなってしまいましたが、「高崎競馬場(用地)利用案」が生まれる背景には、まず、以前に触れている「新幹線停車駅の高崎駅から徒歩10分程度」という立地条件の良さからの発想があげられます。しかしそれだけの単純な思いつき、と断じるわけにもいかない行政の動きがあるのです。昨今の景気低迷のなかで沈滞化する県の経済と高崎市の繁華街。比較的未整備な駅東口の再開発をなんとか経済活性化につなげたい、なにか目玉になるものは、赤字続きの競馬場をふたたび活性化できるのか、跡地になにか・・・、というわけです。
しかしid:toroneiさんのご指摘や紹介記事にもあるとおり、用地問題や行政の方針対立など、問題点も多いのが現実です。2年後との期限もありますが、これからも簡単に先に進む問題でもないようです。やはり早くて来期のJ2昇格の可能性のあるクラブのスタジアム案として、あてにするには危険です。
くりかえしになりますが、あるスポーツ文化を興すために他方のスポーツ文化をつぶす、なんてのはナンセンスです。また競馬場存続問題の打破策として「地域経済活性化、スタジアムの要望強し」なんて看板・名目で行政に利用される(考えすぎかもしれませんが)おそれもあります。簡単に云えば、競馬場が必要かどうか、の難しい判断を下さずに「サッカーで必要だから」などど行政の言い訳材料にされるのは勘弁です。将来どうなるかはわかりませんが、群馬サッカー界は高崎競馬場の廃止の片棒を担ぐ、またそう見られるような言動は採るべきではないでしょう。
これもid:toroneiさんのご指摘ですが、

そしてここ数年が赤字だから潰そうということで競馬場を潰したら、サッカー場やサッカーチームだって、それまでの黒字や地元への文化貢献など顧みられずに、サッカー場やチームだって潰されるかもしれない、少なくともそういう下地は作ってしまうということも指摘しておきます。

につながります。「赤字を理由に競馬場を廃止してスタジアム」となったその時から「サッカーなら集客上昇、黒字の経営」の業を背負わされるのと同じようなものでしょう。今はザスパ草津群馬FCホリコシの同時JFL昇格などで注目を集めていますが、将来的な黒字経営を保証することにはなりません。
最悪「競馬場のほうがマシだった」なんて非難があるわけです。サッカーも儲からないからスタジアムは利用停止だ、なんて云われても反論のしようもありません。こちらは百八十億円の配分金なんて理由も持てないでしょう。文化面からの反論も競馬場を潰すようなまねをしていれば、出来るはずもありません。
文化の面からも、行政の対立などの複雑な存続問題などからも、スタジアム欲しさに自分(サッカー側)から渦中に飛び込む必要はない、と考えています。

*1:詳しくは3月28日の書き込みを参照ください。

*2:小寺知事は高崎競馬場の管理者でもあり、現状には以前から憂慮。対策を講じてきていた。