天使の牙、個性派には個性的な役を。

役者はがんばっていた。

感想を残しておこうと思った映画シリーズ、その4。

●天使の牙 B.T.A.(2003/日本/119分)
監督:西村了
脚本:寺田敏雄落合正幸
原作:大沢在昌
撮影:河津太郎
出演:大沢たかお佐田真由美黒谷友香萩原健一佐野史郎嶋田久作/西村雅彦/豊原功補田中要次永井大要潤
コピー:アスカ――ただ一つの使命のために、リバースされた頭脳。

●あらすじ
新型麻薬の力で急速に勢力を伸ばす「君国」率いる謎の麻薬組織。そんな中、その内部情報をもって警察に保護を求めてきたのは君国の情婦、はつみ(佐田真由美)だった。彼女を保護するために派遣された女刑事の明日香(黒谷友香)だったが、はつみは明日香の先輩刑事で恋人の古芳(大沢たかお)に射殺されてしまう。また明日香も直後に組織の銃弾に倒れる。そして最新医学の力で蘇生する明日香。しかし彼女の肉体は、はつみのそれだった。古芳はなぜ、はつみを撃ったのか。彼に会うためにも明日香は、はつみの体で君国の組織へ潜入する。

前半はスタイリッシュな映像表現と、麻薬組織とその首領のミステリアスな魅力と非情なやり口が興味を引き、ストーリーは快調に進むが、主人公の脳移植から話がとたんにおかしくなる。

まず、謎の首魁「君国」の人物造詣が、この力ある組織を束ねているとは思えないほど薄っぺらく(どうしてこう、悪の首領に長い割に内容のない演説や哲学を語らせたがるのかな!)、その魅力的な設定を台なしにしている。またアクション&ガンアクションにも、ミステリーにも、苦悩する主人公の人間ドラマにも、徹しきれない中途半端なシーンの連続。さらに前半のスタイリッシュさはみじんもない映像が続き緊張感もなくなっていく。美しい女性による「ガンクレイジー」なアクションに徹するか、原作どおりに古芳と(外見は)はつみになった明日香のコンビが苦境をくぐり抜けながら、かつては解かりあえなかった部分を埋めてゆく、という筋をメインに据えたほうが良かったろう。

大沢たかおは実力ある俳優だし、モデル出身の佐田も好演している。その他の出演陣を眺めても萩原健一佐野史郎嶋田久作、西村雅彦、豊原功補田中要次と名を知られた個性派を並べながら、彼らを活かした役を与えていない。別段、彼らではなくても良いような役回りと出番でしかないのが残念。逆に云えば、大沢をはじめ個性派俳優陣が発揮する演技力によって、この作品はまだ救われているとも云える。

たしかに原作の設定では、どういじっても格調高い作品にはならないだろう。しかしこの原作と出演陣が揃えば、充分に佳作以上の作品にはなるはず。予算が云々以前に、脚本に厚みと深みが致命的に欠けている。とても残念な仕上がりになってしまった作品である。