群馬県のスタジアム問題、その8。戸惑いの県陸協。

鶴舞う形の群馬県。

7月25日上毛新聞の1面トップ記事は、群馬県のスタジアム問題の続報が掲載された。記事は1週間でネット上から消えるので、リンク先は割愛。

●ヤマ場のスタジアム問題
Jリーグ昇格へ向けたザスパ草津の快進撃で、昇格に備えた環境整備策を検討する県と公募県民による「Jリーグ発 新ぐんま活性化プロジェクト」は、近く設置場所を小寺弘之知事に答申する。最有力候補は前橋・県営陸上競技場だが、同じ施設を陸上とサッカーが共有するには、施設利用の日程調整など課題は多い。「J2」参加申請の期限は九月末。限られた時間に課題を克服するには、陸上界とサッカー界の相互理解が欠かせない。

以前にも触れた(http://d.hatena.ne.jp/SH77/20040328#p2)県営陸上競技場の改修が「J規格スタジアムの確保」で工期最短・費用最小の現実的な案であるが、必要改修部分は座席の確保(1万席)のみならず、ピッチの広さも数メートル足らなにので拡張しなければならない。それゆえピッチを囲う陸上トラックや投擲競技のスペース確保に問題が生じてしまうのだ。

県サッカー協会は「Jリーグの試合誘致」などの観点から、県陸協に「陸上競技場のJ規格への改修」を以前から打診していた模様。しかし上記のような理由もあり、また「Jを具体的に目指すクラブもない以上、現実的でない計画」と県陸協は拒否し続けていた。陸協の立場では当然の意見だが、しかし今季のザスパ草津群馬FCホリコシJFL昇格で、事態と周辺環境は変わってしまった。

六月下旬、県は陸上競技場改修についての意見提出を、県陸上競技協会(陸協)に要請。陸協の中村寧孝総務委員長は、これを受けて開いた理事会で「今回ばかりは協会の総意としての対応が必要だ。感情論では収まらない」と、事態の重大性を総括した。

スタジアムの確保は、本県初のプロスポーツチーム誕生の成否がかかる問題。J昇格を期待する世論も高まりを見せているだけに、陸協の苦悩は想像に難くない。

県行政のサッカーに対する前向きな姿勢、ザスパ草津の目下JFL2位の好成績、JFL1試合観戦者数記録を更新する*1などサッカー機運が県下で盛り上がる現在、県陸協が従来どおりの反対姿勢で「J加盟断念」などと云う事態になれば、悪役の汚名をかぶるのが誰になるかは明らかすぎるほど。

中村陸協委員長の発言「協会の総意」とは、具体的には「安易な反対論で一蹴する段階ではなくなった。Jリーグで陸上競技場が優先使用される場合でのスケジュール調整、陸上トラックなど競技スペースの確保など、現実的な交渉を行い、その落としどころはどこか。を考えなければならない」と云うことだと思う。つづいて記事では、そのような県陸協の運営上の案件を具体的に挙げている。

●運営に支障
同競技場をホームスタジアムとして活用することについて、陸協の武藤顕理事長は「県の施設であり、陸協の都合だけを押し通すことはできないことは理解している」としながらも「意見を問われれば、ノーと言わざるを得ない」としている。

理由はこうだ。(1)ピッチを広げることで、走り高跳びや、やり投げの助走エリアがトラックにはみ出るケースが出るため、競技全体の進行が遅れたり、選手が競技に集中できなくなる可能性がある(2)高校、中学の総体や各種全国大会の予選会など主要大会のほとんどと、選手強化に欠かせない練習会、合宿を陸上競技場で行っており、必要な日程が組めなくなる恐れがある(3)ピッチを傷めるとの理由で、ハンマー投げなどの投てき競技を、別会場で行うよう求める声が上がることが予想される―など。

陸上競技場は県陸協がメインで使用できるが、さらに大枠で見れば「税金で作られた県民のための施設」でもある。突っ張るばかりも出来ないが、県陸上界が運営に重大な支障をきたすような事態は受け入れられない。スポーツ文化の観点からも「サッカーのために陸上は泣け」では本末転倒の極みだろう。カギは陸協の案件の解決策になりそうだ。

●メーンは陸協
陸協内でも、可能な対応策に知恵を絞るものの、投てき問題に関するサポーターの反応など不可測な要素もあり、解決策は見い出せないのが現状という。

この件に関しては、全国のJのホームスタになっている陸上競技場での対応策の調査・研究が必要だろうし、陸上競技場に隣接する補助競技場の改修も併せて行う、などが出来ればよいのだが。ただ補助競技場はただのグラウンドに過ぎず観客席もなく、これまた費用がかさむことになってしまうのが悩みの種か。

陸上競技場の改修を県議会に請願した県サッカー協会は、こうした課題をどう見ているのか。布浦宏理事長は「ホームスタジアムになった場合でも、競技場利用のメーンが陸協であることは重々承知。運営上の課題を伴うことも理解している」とする一方、「県の財政事情など環境を考えれば、(陸上競技場の改修以外に)選択肢が無いのも現実」と苦しい胸の内を明かす。

責任の重さを真摯に受け止める陸協。「主役」の立場を尊重するサッカー協会。課題は多いが、相互に理解し合える土壌はある。

自らの立場を声高に強調するばかりでは、事態は進まない。現実的には「県営陸上競技場での共存」を図らなければならない県下サッカー界と陸上界。記事の結びのように話し合いによる相互理解と、陸協の上げた案件の解決を図る、実務者レベルでの具体的な折衷案の構築が落としどころだろうか。記事を執筆した高橋記者は、以下のような視点を書いている。

記者の視点◎実務者で話し合いを
Jチームの誕生を地域や経済の活性化に効果的につなげるには、チームを県民レベルで支援する環境と機運の醸成が必要だ。県営陸上競技場での陸上とサッカーの共存は、そのために乗り越えなければならない課題の一つだろう。

陸上競技場の改修話は、これまでにも何度か持ち上がった。Jチームが戦う天皇杯の試合誘致を目指す県サッカー協会の請願や要望に基づくものだが、いずれも県陸上競技協会との正式な協議に至らぬまま立ち消えになっている。この問題の難しさを示す例といえる。

陸協会長は中曽根弘文参院議員、サッカー協会長は谷津義男衆院議員。両協会とも傘下に多数の組織を抱え、意見調整は容易ではないだけに、「共存」への近道を同じ自民派閥の二氏によるトップ会談に期待する市井の声もある。だが、それでは本質的な相互理解からは遠ざかる。

まず、双方の実務者が同じテーブルにつき、互いの競技について理解を深めることが肝要だ。仮に譲歩を導けなくても、そうした手続きを経ることが、実際に競技場を使う競技者たちを納得させる近道となるはずだ。

ここで自民党議員の名前が挙がるところが群馬らしいといえばそうなのだが、この視点で書かれているとおり、ギインセンセイ頼りで解決する問題ではない。専有・優先の「ベスト」は無理な以上、やはり感情のしこりが互いに残らぬよう、互いの案件を出来るだけ解消できるような「よりベター」な解決策を探るしかないだろう。記事にもあるとおり、その話し合い事態が互いの立場の理解を深めることにもつながるのだし。

*1:やっぱりこういう材料は強みになる。行動を伴う具体的な「県世論」だからね。