天皇杯準々決勝。ザスパ草津の旅は長崎で終幕。

SH772004-12-21

●第84回天皇杯全日本サッカー選手権 準々決勝 12月19日(日)
ザスパ草津 0−3 東京ヴェルディ1969(13:00KICK OFF/長崎) 
得点者
2分:林健太郎(東京V)
35分:李康珍(東京V)
56分:平本一樹(東京V)

Jリーグチャンピオン相手に9人で勝利して一躍、通常のニュース枠でもとりあげられるなど注目を集めたザスパ草津天皇杯準々決勝は東京ヴェルデイ1969と長崎で対戦。J's GOALのレポートの注目部分に、ザスパ草津サポとしての書きこみを加えた形でアップ。
http://www.jsgoal.jp/club/2004-12/00014741.html

妥当な結果だったと言えるだろう。5回戦で王者横浜FMを相手に大番狂わせを演じた草津の3回目のJ1へのアタックは0−3と完敗で幕を閉じた。
ザスパ草津東京ヴェルディ1969の戦った準々決勝は各々ベストの布陣を組めたわけではないが、リーグでは見られない真剣勝負、正当な実力を測るのに不足ない試合だった。

東京ヴェルデイは日本代表の三浦淳を始めウーゴ、ウベタの両外国人を欠き、平野や森本を負傷で出せない状態。ザスパ草津も前試合で中心選手のMF山口貴之とDF籾谷真弘が出場停止になっており、布陣変更を余儀なくされた。この試合のメンバーと先発フォーメーションは以下の通り。BGMはおなじみ草津節で。

ザスパ草津スターティングメンバー
GK:22小島伸幸
DF:17小川雅己・3小田島隆幸・4依田光正・18寺田武史
MF:6鳥居塚伸人・8小久保純・15山崎渡・16堺陽二
FW:13宮川大輔・27吉本淳
サブ
GK:1北一真 DF:7佐田聡太郎・29セレゾ モラエス 
FW:14佐藤正美・34酒井良
●フォーメーション(4−4−2)
−−宮川−−吉本−−:佐藤・酒井
−山崎−−−−−堺−:
−−鳥居塚−小久保−:
寺田−−−−−−依田:佐田
−−小川−小田島−−:セレゾモラエス
−−−−小島−−−−:北

JFL後期にも度々みられた4−4−2の布陣だが、山口不在では、やはりカウンター勝負となるだろう、と思われた。実質MFは先発の3名のみ、でサブも含めてFWは5名という構成に。これに関しては試合後のインタビューで植木繁晴監督が質問に答えている。
http://www.jsgoal.jp/club/2004-12/00014728.html

●植木 繁晴監督(草津
Q:堺選手をMFで使った理由は?
「中盤の選手がいなかったというのが理由です。彼にあの位置からディフェンスの裏側に飛び出させて、というコンセプトだったんですが、ディフェンスに引かれて相手についていかざるを得なかった。アグレッシブな姿勢が足らなかったので、機能しなかったのですが、もう少しあのポジションでできるはずだと使ってみました」

堺陽二選手はザスパ草津の前身、リエゾン草津からの唯一の生え抜きで運動量で勝負するFW。その運動量と前線からのプレスで途中交替での起用が多かった。1.5列目からの飛び出しを期待しての起用だそうだが、やはりほぼぶっつけ本番でJ1相手は苦しかったということと、山口に替わるMFを増員しても中盤の支配力では及ばない、ならば別の部分(カウンター力アップ)を強化しよう、という判断だったのだろう。
さてキックオフから、さっそくザスパ草津東京ヴェルディの早いパス回しで押しこまれる展開に。

試合は開始早々に動くことになる。開始わずか2分のこと。平本と相馬が敵陣やや左で繰り返したワンツーを止めに入った小田島が、そのワンツーの流れでエリア内に侵入した平本を足をかけて止めてしまう。PKを得た東京Vは「名人」(平本)林が冷静に右足でゴール左隅に決める。
「あのPKが大きかった」(小林慶)、「1点目の失点が早すぎた」(宮川)と、双方が認める通り、早すぎる時間帯の1点が試合を方向付けることになる。

カウンター勝負、僅差勝負を仕掛けたかったザスパだが、前半開始早々に失点する苦しい出だしに。この失点が試合の流れを決定づけてしまったことは誰の目にもあきらかだった。もちろん監督と選手にも。
http://www.jsgoal.jp/club/2004-12/00014727.html
http://www.jsgoal.jp/club/2004-12/00014729.html

アルディレス監督(東京V
「幸運にも立ち上がり早々にゴールを決めることができたので、かなり楽になりました。2点目以降は、草津がより前に出てくるようになり、こちらのカウンターのチャンスが増えました。」
飯尾一慶選手(東京V
「相手はJFLだが強かった。先制点の時間帯が良かった。0−0のままいってたらこういう展開にはならなかったかもしれない。(自分自身の出来については)決められた得点があった。次では決められるようにがんばる」
小林慶行選手(東京V
ラクな試合にはならないだろうと思っていた。開始早々のPKが大きかった。0−0でいくのと5分に得点を決めるのとでは違う。あの1点ですごく優位に立てた。最悪このままでもいいっていう。」

わざわざライヴ中継に変更してくれたNHKに申し訳ないような展開だが、このあとの両チームの戦いが、この失点をより重くしていく。

前半の草津はいつも通りロングボールを宮川めがけて放り込む展開。一方の東京Vは、中盤でのパス回しから、得点機とみれば一気に縦方向へスピードアップ。「相手のカウンターを気にしつつも、ポゼッションを高めることが出来た」と小林慶が言うとおり、ボールポゼッションは東京Vが高く、ほぼハーフコートサッカー。この日は「前半頑張り過ぎて後半疲れた」という左サイド相馬、平本、飯尾らユース上がり同期生たちの息もぴったり。

草津はいつもどおり」と書かれるほど、JFLでカウンター一本槍のサッカーはしていないが、この記事でいう「いつも」は天皇杯J1戦のように、ということなのだろう。また、中3日の過密日程での試合はJFL前期のゴールデンウイークの中2日以来*1で、前戦の完全燃焼もあってか、かつてないほど全体の動きが鈍い。そして東京ヴェルディの守備アプローチを見て「このままじゃ、よくて1点しか入らないな」と感じた。すっかり対策を練られていることが明白であり、それが通じない時の次善策は、山口不在のこの試合ではセットプレーしかないからである。同点に追いつくか、2失点目で突き放されるか、が勝負を分けると考えていた。万全だった東京ヴェルディの守備の約束事に関しては試合後のコメントに。

アルディレス監督(東京V
Q 草津攻略のポイントは?
「まず自分たちの守備に懸かってると思いました。FWにボールを入れ、かなりダイレクトなプレーを仕掛けてくるチームで、また、そのボールを受けるFWが非常に身体の使い方がうまい選手なので、そこが危険だと判断し、その点について選手たちに集中させました。1人が競って1人が余るという形ができていたと思います」
李康珍選手(東京V
「相手の攻撃は単調で、競り勝つことに集中すればよかった」
小林慶行選手(東京V
「相手のカウンターを警戒しつつもポゼッションをあげるということができた。」

雲のジュウザではないが「大バクチのタネ明かしは1度だけ」である。セレッソ戦、横浜FM戦ではより特化していた対J1カウンター戦術に、アルディレス監督が対応してこないはずがなかった。そしてその対応を見て、山口選手が云うとおり「10回中1回とおればよい、というツマラナイ戦術」だが、そこにミスやアクシデントまで味方してくれねば得点が期待できない状況になっていた。しかし動きの鈍いザスパに対し、ヴェルデイの華麗なパスサッカーが猛攻を仕掛ける。

20分、相馬から平本、そしてダイレクトで前線の山田へつないでシュート(左へ外れる)。28分には飯尾が落としたボールを相馬、山田とつなぎエリア内左で受けた平本がシュート(小田島が体を張って防ぐ)するなど草津を攻め立てた。34分、米山のロングパスを頭で平本が反らしたボールを飯尾が拾いきれず、これが相手に当たりCKを得る。35分、小林大が右足で蹴った右CKはゴール前、中央の李の頭にぴたりと合いゴールに吸い込まれると2点目。試合はこの時点でほぼ東京Vのものとなる。

ザスパの得点機が、かなり少ないことを考えれば、ここで試合は終わっていた。あとはザスパがせめて肉迫できるか、1点返せるか、に推移する。

ハーフタイムで草津・植木監督は「格上相手に気持ちが足りない」と怒ったと言う。「横浜FM戦での勝利に満足するな」と。前半、防戦一方だった草津は後半から積極的にプレスを掛け、攻撃を仕掛けるようになる。これが逆に東京Vのカウンターのチャンスを生み、後半11分、右サイドで山田のスローインを受けた飯尾がゴール前左の平本へマイナスのパス。「一人かわしたら打とうと思った」とディフェンダーをかわし、弾丸シュートをゴール左隅に突き刺し、3点差とする。
平本一樹選手(東京V
「チビ(飯尾)とのコンビで点をとりたいと思っていた。チビからボールがきてよかった。(ゴールのシーンは)一人かわしたら打とうと思っていた」
鳥居塚伸人選手(草津
「ゴール前の厳しい中での争いに負けた。厳しさを作っていかないと。JFLだと打たれても入らないところが今日は打たれると入ってしまった。やらせていいところとダメなところをしっかり理解していかないと」

後半開始からやや押し気味の展開をつくれるが、得点機までは作らせてもらえない。そして3失点目。さすがJ1レベルのストライカー、と映った。JFLでああいうプレーとシュートを撃ってきそうなのは、自分が見た中では、ホンダ(現セレッソ)の古橋、ヴォルティスの大島、横河武蔵野FCの村山くらいしか思いつかない。

こうなると東京Vのボール回しには拍車がかかり、挑戦者を突き放す見事なサッカーを披露する。草津は後半9本(東京Vは4本)のシュートを放ちゴールを狙うも最後までものにできなかった。
「J1とは差があったということ」とGK小島は冷静に振り返った。決して満足したわけではないが、王者に対して勝利した後の試合だけに精神的に100%でなかったのも事実だろう。加えて主力山口、籾谷を欠いたのも痛かった。しかしそれら全てを含めても、「力の差をまざまざと見せられた」(植木監督)というのが実感だろう。選手、監督それぞれ、「これが来季につなげられれば」と前を向いた。

完敗。たしかに記事にある要素に加えて早い時間の失点があったとはいえ、J1との差を見せつけられた試合だった。さて試合後のコメント。

アルディレス監督(東京V
「非常にうれしい勝利です。タフな試合でした。また、草津を称えたいと思います。ここまで来ることができたのは非常に大きな成果だと思います。
ゲーム前に選手たちに言ったのは『自分たちのサッカーをやらないといけない』ということでした。次の試合(準決勝)のことを考えず、いい心構えでこの試合に臨んだ選手たちを褒めたいと思います。
後半に入ってからは草津に押し込まれる場面もありましたが、ディフェンスラインもそれにしっかり対応してくれたと思います。そして、カウンターからの3点目が試合を決定づけました。
今日の選手たちは素晴らしかったと思います。常に集中してました。パス回しも非常に良かったと思います。
ベスト4に進むことができたというのが一番うれしいです。
日本でクリスマスを過ごせるというのもうれしい。今年はまた違ったクリスマスになると思います」
●小林 慶行選手(東京V
「勝ててよかった。JFLのチームには負けてはいけないと思っている。J1ですし」
平本一樹選手(東京V
草津はこれまで感動的な試合をやってきているのでやってみたかった。体も強いし、走るし強かった。(準決勝進出だが)何年もタイトルをとっていないんでとりたい。自分もあと2点くらい取りたいし、アシストもしたい」
宮川大輔選手(草津
「(今日の敗戦は)くやしいっすね。点を取れるところでも取れなかったし。前半は0−0ならいいと思っていたので、早すぎる失点でした。今日は前線からのプレス、フォワードの追い方がまずかった。取られたら戻るなど、攻守の切り替えが遅かった。ヴェルディは回してくるとわかっていたが、回させているというイメージを持てと言われていました。点を取られるのは速い攻撃からなんで。縦に気をつければよかったんですけど、相手が隙をつくなど、上手でした。真剣勝負の場で上のチームと出来るというのはよかった。J1のチームと戦い自信も付いた。来年につながればいいですけれど。1年を通して、たくさん応援してもらっていい年でした」
鳥居塚伸人選手(草津
「ひとりひとりの技術の差、戦術(理解)の差がでた。徹底しきれていればJ1相手でも出来ることがわかった。相手のディフェンスの遅い部分をついてやろうといっていたが、自分達のディフェンスとフォワードの間が開きすぎた。J1相手に2勝できたことは自信になる。そういう自信を来年につなげたい」
小島伸幸選手(草津
「今シーズンは長かったですね。まあ、こんなもんです。今日の失点は早すぎた。後半は点を取りにいったんだが。来年はJ2だけど、天皇杯ではJ1とは差があるということがわかった。来年へのいい練習になった。個人的にはゆっくり休みをとり、足を直して気力を充実させたい。来年はこういう戦いが続いても大丈夫な体力をチームとしてつけていかないといけない」

鳥居塚キャプテンとGK小島さん、FW宮川が云うとおり、この敗戦が4回戦でなく、準々決勝まででJ1から2戦2勝、3試合できたことをザスパ草津は財産として欲しい。ザスパ草津にとって、今年の天皇杯はとても実りあるものとなった。その意味ではJ1の強さを見せつけてくれた東京ヴェルディにも感謝が必要だ。でもヴェルディに負けて良かったとは思ってないぞ、コンチクショー。山卓フィジカル強すぎ。そしてこの戦いでザスパ草津公式戦での采配を終えた植木繁晴監督が総括を。

植木繁晴監督(草津
「力の差をまざまざと見せつけられたという気がしています。ただ、ウチのコンディションが整ったなかでなら、こういう試合でも勝てる要素があるはずなんですけども。前半動けなかったので、それが一番残念かなと思ってます。
天皇杯でJ1チームと3戦やってきて、どれぐらいの差を感じ、今後どう練習をしていくかというのが、選手たちにとって一番大切なことだと思います。今日の差を、きちっと最後まで悔しさとして持ち続けることで、いつかはこのレベルに追いつけるんじゃないかなと思います」
Q:今回の試合が最後の采配でしたが、試合後に選手たちには?
「『おつかれさま』と一言。シャワーを浴び終わってから、彼らにやってほしいことを伝えようと思います。この3つのゲームを無駄にしないで、自分の中で目標とし精進するように。それから来年、J2に入るわけですけども、活躍できるように、がんばるようにと伝えようと思います」
Q:天皇杯、大会を通しての感想・印象は?
「選手たちが個人個人がよくがんばって、組織的なサッカーをしようというのを理解してくれたんで、これが来年につながればいいですし、僕と選手たちとの信頼関係は3年のなかで作れたのかなと思います」
Q:3年間チームをつくってきて、監督のなかでチームはどのくらいのレベルまで達したか?
「J2の下位ぐらいじゃないですか。もっとレベルを上げないといけない、今のチームで高みにまで来てるとも思わないし、JFL3位という結果を見ても、もっともっとできたかなという気がしてます」

本当に3年間おつかれさまでした。そして監督スタッフ、選手も今季の「J加盟と天皇杯ベスト8」という成果に胸を張ってください。サポーターにとっても多くの感動をもらったシーズンとなりました。

*1:未経験の過密日程、みたいな書き方をしていたスポ新記事があったが、JFL日程表くらい参照してもバチはあたるまいよ。いい加減な稼業だ。