イルマーレ、設定を凌駕する優しき共感。

Il Mare

感想を残しておこうと思った映画シリーズ(長いよ)、その1。

イルマーレ(2000/韓国/97分)
製作:チャ・スンジェ
監督:イ・ヒョンスン
脚本:ヨ・ジナ
撮影:ホン・ギョンピョ
音楽:キム・ヒョンチョル
出演:イ・ジョンジェチョン・ジヒョン
コピー:海辺の家<イルマーレ>で受け取ったのは未来から出された消印のない手紙...

●あらすじ
舞台は現代の韓国。
ある海辺に建てられた家「イルマーレ*1。そこの住人だったウンジュ(チョン・ジヒョン)は引越しの時にイルマーレのポストに「私宛ての郵便が届いたら、新しい住所に転送してください」と手紙を残す。そして、それを受け取ったのはイルマーレに越してきた青年ソンヒョン(イ・ジョンジェ)。しかし彼はイルマーレ最初の住人だった・・・。ポストが2年の時間を越えて手紙を運ぶ。互いの心の傷を知り、互いを思い遣る交流の中で惹かれあうふたり。98年に生きるソンヒョンと00年に暮らすウンジュは、めぐりあうことが出来るのだろうか。

この映画の特筆はそのビジュアル。海辺の家「イルマーレ」の春夏秋冬の景色はもちろん、主人公ふたりを画面においたカットそれぞれが、まるで絵葉書のような美しい映像になっている。映画のひとコマひとコマが独立して鑑賞に堪え得る絵画であり、映画全体は画集とも云えるわけで、その点だけでもビジュアリストとして名高き監督イ・ヒョンスンと、近年もさまざまなジャンルの映画の撮影・映像に挑むホン・ギョンピョのコンビが生んだ傑作なのだと云えるだろう。

ポストが時空を越えて2年間という時間を隔てた二人をつなぐラブロマンス、と云うSFな設定が目を引くが、その特異な設定に依りすぎることなく、ほぼ主人公ふたりだけで進行する数々のエピソードのみで、観客の興味と集中力を引っ張りつづられる構成も素晴らしい。ただ、タイムパラドックスの観点からは疑問も多いが、正確な考証やSF設定が野暮に思えるほど、ウンジュとソンヒョンに観客が持つだろう共感とやさしさが感動を生む作品であった。

*1:イタリア語で「海」を表す。