レイン、模倣を越えて。

SH772004-05-10

感想を残しておこうと思った映画シリーズ、その6。

●レイン(2000/タイ/106分)
http://www.klockworx.com/rain/
監督:オキサイド・パン/ダニー・パン
脚本:オキサイド・パン/ダニー・パン
撮影:デーチャー・スィーマントラ
美術:ウット・チャオスィン
音楽:オレンジ・ミュージック
出演:パワリット・モングコンビシット/ピセーク・インタラカンチット/プリムシニー・ラタナソパァー/パタラワリン・ティムクン
コピー:愛されてはいけない、独りぼっちの殺し屋。

●あらすじ
舞台は、現代のバンコク
天涯孤独で聾唖の青年、コン。彼は殺し屋のジョーに見出され、その後に引退したジョーと彼の恋人である情報屋のオームだけに心を許し、凄腕の殺し屋としてバンコクで生きていた。そんなある日、風邪をひいたコンは薬局で働くフォンという少女に出会い惹かれ、人を愛することを知る。しかし、ジョーとオームが巻き込まれた事件がコンの運命も変えていってしまう・・・。

まずオープニングタイトルの見せ方が「ありそうでなかった」。そしてこのキーワードがこの映画全体を表す一言でもある。ストーリーも撮影手法もどこかで見たことがあるものながら「それをどう作品で活かしていくか」が考え抜かれている。知り尽くしている、とも云えるだろう。監督と脚本を担当しているパン兄弟はCGなど特殊映像畑出身だそうだが、その身につけた技法に溺れることなく、映像表現を単なる模倣に終わらせず、自らの作品での「答え」を順番に見せている。それが彼ら兄弟のオリジナルとなるのだ。

地下鉄での「仕事」の緊張感の演出、路地裏の逃走劇。耳の聞こえない主人公の主観の世界と、音のある客観の世界の見せ方とストーリーの進め方。スローモーションで見せる雨粒。スタイリッシュと括られる映像表現だが、バンコクの熱さを感じさせない透明感も醸し出しており、銃を撃つことでしか自己を表現できなかった青年の物語をより深いものにしている。

映画全体では第三者視点を採用しながら、彼の生きる静寂の世界から外の世界を眺めることで、彼の生きる世界を知り、その世界と作品に同調させられる。そしてラストシーンでの彼の世界と第三者視点の風景の対比。観客は彼の世界を感じ理解する。しかし映画の登場人物たちはほとんどそれを解からずに映画は終わる。だからこそ作品の終了後に切ない余韻を残すのだろう。大傑作ではないかもしれないが、充分に鑑賞に堪えうる佳作である。