卒業、声なきセリフが伝わる作品。

内山理名は今後も楽しみ。

感想を残しておこうと思った映画シリーズ、その7。

●卒業(2002/日本/113分)
http://sotsugyo.toho-movie.com/
監督:長澤雅彦
脚本:三澤慶子/長澤雅彦長谷川康夫
撮影:藤澤順一
音楽:REMEDIOS
出演:内山理名堤真一夏川結衣谷啓石井正則
コピー:忘れない。

●あらすじ
舞台は現代の日本。
卒業まで2ヶ月のある雨の日。短大生の麻美(内山理名)は心理学講師の真山(堤真一)に赤い傘を差し出した。それ以来、無邪気で積極的な麻美からのアプローチに、真山の戸惑う日々が始まる。実は麻美にとって真山は、亡き母親の愛した男、自分の父親なのだ。一方、真山の恋人である泉(夏川結衣)も彼の心に自分の居場所を見出せぬまま、真山から去ることを決意する。19年間も過去への想いに悩みつづける真山の姿を見て、麻美は真山の心を解き放とうとするのだった・・・。

「ココニイルコト」で一躍名を挙げた長澤雅彦監督の同系列の作品。無駄を省いたシンプルな構成と丁寧に作られた映像で、物語はゆっくりと進んでゆく。

物語の始まりを象徴する赤い傘。午後の日差しの中に浮かぶ、存在しながらも幻のような麻美。美術館での絵画鑑賞でのしぐさ。水族館での麻美の横顔に浮かぶ、想い出の時間。そう云った場面場面の言葉で聞かせるよりも真意を伝える映像がストーリーを組み立ててゆく。

亡き母からその姿を語られ続け、19年の歳月を経てようやく出会えた父親。言葉にした途端に真意を伝えきれていないことが判ってしまう。麻美がその万感をどう真山に伝えるのか。真山は長き苦しみから解放されるのか。それが作品のテーマであり、ラストの台詞に集約される。

そのセリフに込められた百の想い。作品の完成度が低ければただの説明不足だが、内面的な真山をおさえた演技でこなした堤はもちろん、恋する女性のような父親に甘える娘のような母の恋愛を追体験するような、その不思議な曖昧さをうまく見せた内山の二人の人物造詣と、美しい映像が、その想いをうまく伝えている。正確には、その想いを推し量る・観客を想像の余韻に浸らせる効果を発揮している、と云えるだろう。
この映画もっと記しておきたい事柄が多いのだけれど、ネタバレは避けたいし、なにより言葉にすると伝わらないことが多すぎる(笑)。麻美の存在感の曖昧さ希薄さが想像の余地をうまく残しているし、なるほど良いタイトルだなあ、としか記すしかない。内山理名の初主演映画だそうだけれど、その事を人に誇れる良い作品になっていると思う。個人的にはかなり好きな映画。