NFLドラフト資格裁判、その1。ドラフト資格とは。

もうこのユニを着ることはない・・・。

個人的にかなり注目していた裁判が決着した。「NFL JAPAN」のビル・マークレビッツ氏のコラムで詳細がアップ。
http://www.nfljapan.co.jp/mania/column.html

●HOT OFF THE GRIDIRON #109 クラレットのルールへの挑戦は、NFLの根本を揺るがすものです。」
NFLコミッショナー、ポール・タグリアブー氏の、スーパーボウル前の年一度のコミッショナー会見で、私は、モーリス・クラレットの裁判に関して彼が非常に慎重に答えている姿を見ました。その記者会見でタグリアブー氏は、NFLの、“3 year draft rule”(ドラフト資格を希望するカレッジフットボール選手は、少なくともその選手が高校を卒業してから3シーズンを経過していなければならない。) というドラフト規則は裁判でも守られるという自信が滲み出ていました。その点が、プロフットボールが、18歳以上の選手であればドラフト資格がある、野球、バスケットボール、ホッケーなどのスポーツと違う所です。

まず、NFLのドラフト参加資格とその実状について。
NFLは狭き門である。毎年大学アメフトの経験者の卒業生は全米で10万人と云われ入るが、NFL32チームが持つ指名権はそれぞれ7つ。*1都合10万人の中から選ばれし224名となる。しかし、その中でもキャンプ中に100人は消え、プロキャリアの平均、4年をこして契約を結んでいるのは30〜50名程度。全米レベルで名の通ったスター選手になる者が5人もいれば上出来。大学のスター選手がプロでまったく通用しないことなど日常茶飯事であり、そんなことではニュースにもならない世界である。NFLに2軍や3A、サテライトは存在しない。50名あまりのロスターに残れるか残れないか。0か100かであり、圧倒的に0が多くなる。0となった選手のほとんどはアメフト以外に生きる術を見つけねばならないのだ。

NFLは競技のクオリティの維持のため、さらにこのあまりにも厳しい現状から、18歳以上ではなく、大学アメフト経験3年以上の選手にしかドラフト資格を認めていない*2。ほとんどの選手が大学卒業でドラフトに臨むが、毎年10〜20名ほど大学3年生でドラフトを希望する選手が名乗りを挙げる。

これを「アーリー・エントリー」と云うが、これを宣言してしまうとドラフトで指名されようがされまいが、NCAAの規定で大学アメフトでの競技資格を失う。事前交渉を行い、代理人絡みで金銭が動く以上、もはやアマチュアではないからである。ゆえに「アーリー・エントリー」はギャンブルである。しかし大学4年生で致命的な負傷をしない保証はない。ならば早々にプロとなり多額の契約金を得たい選手もいる。この辺りは本人の意識や意欲、家庭の経済的な事情などが影響している。

この「アーリー・エントリー」制度は、上記に挙げた「競技のクオリティ維持とプロ生活の厳しさからの配慮」と「大学選手の早期プロ挑戦希望」の双方を勘案した妥協点と云える。まとめれば「NFLは厳しい世界であり、選ばれた大学アメフト卒業生でもなかなか通用しない。しかし早期にプロを目指したい選手の意志を尊重し、体格・経験の観点から、大学3年生ならばギリギリ許容範囲とする」というところ。

「アーリー・エントリー」でドラフト指名された選手の実状はどうだろうか。「練習で教えられない本能と才能が必須」などと云われるランニングバックなどでは活躍している選手もいるが、より経験を必要とするポジションではほとんど通用していない。わずかに成功例は存在するが、残りの大部分が通用していないのでは、やはり全体的には「アーリー・エントリー」は厳しく、大学でもう1年キャリアを積んだほうが良い、と云えるだろう。

タグリアブー氏は、「そして、我々の資格規則は、NFL選手組合(NFLPA)との団体交渉協約にも適合しています。我々のシステムは機能しています。そのシステムにより稼動している意味深い方法によって、不利益を被っている選手は見当たりません。かわって、大学にとどまり、将来の為に技術を磨くことに専念でき、それがひいては自分の為になっているという選手がほとんどです。我々は、選手組合と団体交渉協約の中の“3 year draft rule”の利益は極めて明確であると信じます。我々がそれを守ろうとしているのは、その為です。」と発表しました。

そして今までこのルールは良好に機能していたが、「このルールは独占禁止法違反である」とアメリカ連邦地裁で裁判が起こされた。訴え主は大学アメフトのスター、オハイオ州立大のランニングバック、モーリス・クラレット。大学2年生。ドラフトは4月、判決は2月に出ることに。

*1:かつては15位まで指名権があったが、ドラフト下位から生き残る選手の少なさから7位にまで減らされた。今でも6〜7位指名で開幕にロスターに残れる選手は限りなく0である。

*2:大学生か否かは資格とは関係ないが、大学アメフト経験者以外をドラフトすることはないので、実質的に大学アメフトの経験3年以上が資格となる。これはアマチュアあってのプロという、レベルの高い選手を供給してくれる大学アメフト側へのNFLの配慮という面もある。