NFLドラフト資格裁判、その3。ケース「モーリス・クラレット」。

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●HOT OFF THE GRIDIRON #113「NFLの完璧な勝利」
NFLは、“高校を卒業して3年経っていなければ、NFLに入る資格はない” というルールを守りきることに成功しました。米連邦地裁による2度目の判決でもNFL側が勝訴し、RBモーリス・クラレットとWRマイク・ウィリアムズはドラフト参加資格を得ることはできなかったのです。

オハイオ州立大学RBモーリス・クラレットは第1回目の裁判で勝訴したものの、その後、2人の裁判官は彼の訴えを認めませんでした。4月のNFLドラフトにエントリーすることが許されなかったクラレットとウィリアムズは補足ドラフトへの参加資格を得ることを望みましたが、2人の願いは聞き入れられませんでした。

現在クラレットとウィリアムズは監獄に入れられたのも同然の状況に陥ってしまいました。彼ら2005年のドラフトまでNFLに入ることは禁じられ、アマチュアの身分は捨てるという代理人契約を結んでおり、もはや大学でフットボールをプレイすることはできません。

たしかに1年間辛抱すれば正当なドラフト資格は得られる。「高校卒業から3年」経つことになる。しかし、今年彼らはどこで1年間プレーすればよいのだろうか?

クラレットがオハイオ州立大学へ戻ることはありません。クラレットは2002シーズン、1年生のときに1,237ヤード、16TDという成績をあげ、全米チャンピオンの要となりました。

今年はじめ、クラレットが春学期の登録をしたときには、オハイオ州立大学に戻りたいように見えました。しかし、4月のNFLドラフトに参加できるとした2月の判決後、春学期の授業へ出席することはありませんでした。

オハイオ州立大学の体育部長アンディ・ガイガーは、「クラレットがオハイオ州立大学でプレイすることはありません。」と言っていました。そして、つい先日、オハイオ州立大学は、モーリス・クラレットがオハイオ州立大学の学生でもなければ、オハイオ州立大学フットボール部の一員でもなく、今後、オハイオ州立大学のトレーニング施設を利用することは認めないという声明を発表しました。

もし、クラレットがオハイオ州立大学に残って、1,000ヤード、15TD以上を記録していたら、オハイオ州立大学はビッグテンカンファレンス2連覇、全米チャンピオン2連覇を成し遂げていたかもしれません。クラレットはオールアメリカンに選ばれ、ハイズマントロフィーを受賞していたかもしれません。

クラレットは、これだけの栄誉を受け、オハイオ州立大学との良好な関係を維持していれば、将来はきっと安泰であったでしょう。引退後はオハイオ州に住み、よい仕事を見つけていたと思います。フットボール狂のオハイオ州では、オハイオ州立大学フットボールのヒーローは、昔から、ヒーローと提携したいと考えている企業からの多くの誘いがあります。2度(1974−75年)のハイズマントロフィー受賞者*1、元オハイオ州立大学RB アーチー・グリフィンは、NFLを引退した後、オハイオ州立大学に雇われました。

クラレットは、今、ドラフトされるよりも、大学で経験を積んだあとの方が、高順位のドラフト指名を受け、さらに高い給料を得たであろうことはほとんど疑いの余地がありません。クラレットは、愚かにも、大学でプレイすることとオハイオ州立大学との関係を失っただけでなく、将来のNFLドラフト順位も自ら低くしてしまったのです。

上記記事のとおり、1年の浪人生活を送り、かつどこかのチームがドラフト指名してくれたとしても、指名順位は、普通に彼らが3年生として大学アメフトでプレーし、アーリ−・エントリーした場合より高いとは思えない。おそらく全体トップ10の指名も夢ではなかった彼ら2人の順位の低下による契約金の減少額は、それぞれ数億円〜十億円単位になると思われる。

クラレットに残された選択肢の1つは、今シーズンは、カナダのCFL*2 モントリオールアロエッツでプレイすることです。これはクラレットにとっては危険な選択になります。給料は35,000ドルしかなく、もし深刻なけがをしたら、2005年のNFLドラフトで不利になります。

私の気持ちとしては、NFLの “3 Year Rule” に挑戦したことだけでなく、彼がオハイオ州立大学の奨学生選手としてフットボールをプレイする権利を失ったという点でも、モーリス・クラレットは愚かだったと思います。彼はフットボールフィールドでの才能があり、彼の笑顔を見た人は皆彼に惹かれます。

自分も、この裁判を起こしたことは愚かだと思う。チャレンジに対してあまりにリスクが大きすぎた。そしてオハイオ州立大が主力選手を、NFLが将来のスター選手候補を、アメフトファンがその素晴らしいプレーを観る機会を、それぞれ失ったという悲しい事実もある。彼のキャリア最初の挑戦は終わってしまったが、全てが終わってしまったわけではない。契約金が減ろうとも、その活躍で年俸を上げるようなプレーをNFLで見せてくれる日を待ちたい。敗れたとはいえ、史上初のチャレンジを仕掛けるほどの才能と実力を持ち合わせる選手でもあるのだから。

*1:大学フットボール年間最優秀選手賞。この賞を獲りNFLで活躍した選手も多い。しかしハイズマントロフィーはNFLでの成功を保証しない。一番わかり易い例は、学生横綱の称号が大相撲での横綱位を保証しない、であろう。

*2:カナダ各地にチームを持つアメフトリーグ。NFLと若干ルールが異なり、マイナーリーグと認識されている。