宇都宮さんが天皇杯2回戦、松任FC−ザスパ草津を見にキター。

http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/emp_cup/84th/column/200409/at00002641.html
http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/emp_cup/84th/column/200409/at00002642.html
スポナビの連載記事「宇都宮徹壱天皇杯漫遊記」の第2回に選ばれたのが先日石川県で行われた天皇杯2回戦の松任FC−ザスパ草津のゲーム。ザスパサポとして感想が書きたいところ、補足できるところを少し足しました。

宇都宮徹壱天皇杯漫遊記  松任FCが学ぶべきもの 松任FC対ザスパ草津
ザスパ草津の豪華な顔ぶれに想う

(前部分は略)それでも地元・松任FCと、今や知名度は全国区となったザスパ草津の対戦とあって、スタンドはほぼ満席となった(もっとも、この日の観客数は1031人)。会場には、J2昇格に向けて意気揚々のザスパのサポーターが、ツアーバスに乗って到着。バスに描かれたエンブレムは、鬼瓦と温泉マークという実に明快なデザインである。

エンブレムは今日の画像参照。サッカークラブのエンブレムでここまで魔除けとか、なにか怪しげな霊的パワーを感じさせるものは他にはないのではなかろうか。

試合前、両チーム・サポーターによる心地よい応援合戦を聞きながら、今日のメンバー表をあらためて吟味する。現在、JFL2位のザスパは、さすがにメンバーが豪華だ。

GKの小島伸幸は、元日本代表で、しかも98年のワールドカップ経験者。MFの山口貴之は、U−18からU−22までの代表に名を連ね、ヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ)、コリチーバ(ブラジル)、ブランメル仙台(現・ベガルタ仙台)、京都パープルサンガヴィッセル神戸ガンバ大阪などを渡り歩いて草津にたどり着いた。DFの小川雅己は、代表歴こそないものの、鹿島アントラーズ、京都、セレッソ大坂、湘南ベルマーレ水戸ホーリーホックと所属を変えながら、Jリーグ204試合の出場を誇る。スタメン11人のうち、実に9人が「元Jリーガー」という豪華ぶりだ。

GK小島伸幸は瞬発力などはさすがにピークを過ぎているのだろうけれど、観戦した限りでは集中力の欠けたプレーや凡ミスは見たためしがない。90分集中しつづけてるのでもないだろうし、この辺のスイッチの切り替えが豊富な経験が裏打ちされたものなのだろうか。
MF山口貴之は今やザスパ不動の司令塔である。キープ力・展開力はこのレベルではズバ抜けており、山口抜きでは語れないゲームも多々あり、ザスパJFLにおいて中盤支配力で優位に立てているのは山口とキャプテン鳥居塚伸人の力が大きい。山口貴之というJ1レベルの選手を今季獲得出来たことは今季ザスパ草津フロント*1最高の仕事に数えられる。
小川雅己ザスパDFのリーダー。奥野監督が鹿島に戻られて以後のDFの精神的支柱として植木監督に期待されレギュラーで出場している。水戸などではあまり活躍が出来なかったようだけれど、ザスパ草津ではふたたび輝きを取り戻し、後期第1節の愛媛FCとの対戦で、小島がジャンピングセーブで倒れたところにゴールに放たれた致命的な3失点目となるシュートを防いだのは小川の足だった。アレがなければ後半の大逆転もなかったかもしれず、*2ザスパ草津が現在の順位にはいられなかったかもしれない。ゆえにアレ以来、小川の足はザスパサポに神認定。

もっとも、この11人の中で「サッカー専任」なのは、小島、山口、小川の3人だけ(小島はザスパのコーチ兼任)。残りのメンバーは、地元のホテルや旅館の従業員として働きながら、今も懸命に現役フットボーラーであり続けている。

あとコーチ兼任でサッカー専念はボランチの鳥居塚キャプテン。いまは無きJFLコスモ四日市で活躍し、Jではコンサドーレ札幌に所属していた。ザスパで最も替えのきかない重要選手。キープ力とフィードでは山口に勝るとも劣らない。今はポルトガルに渡ったフラビオも選手専念だった。このたび加入した草津マルキーニョスもサッカー専念だと思われ。

ちなみに松任FCにも、MFの西川周吾(元・水戸)と寺内良太(元・サンフレッチェ広島)という2人の元Jリーガーが所属している。JFLには代表経験を持つ元Jリーガーが、そして地域リーグにもJの経験者がプレーしていることに、私は今さらながらに感慨深いものを感じてしまう。
もっとも私は、彼ら元代表、元Jリーガーたちの「都落ち」に思いをめぐらせているのではない。そうではなくて、純粋に日本サッカー界の受け皿の拡大、そして下部リーグにおける選手のレベル向上に詠嘆した次第である。混迷が続くプロ野球界を尻目に、日本サッカー界の地域に根差したピラミッドは、より強固なものになりつつある。その事実が、いちサッカーファンにはひたすら頼もしく、そして誇らしく感じられるのである。

いまプロ野球界が色々と揉めているが、とりあえずサッカーではJリーガーでなくなったとしてもまだサッカーを続ける場が全国に残っている、という事実は宇都宮さんの云うとおり誇らしいし、なにか安心感を与えてくれる。

●「泉質主義」の意地を見せたザスパ草津
北信越リーグ5位の松任FC。そしてJFL2位のザスパ草津。両者の立場の違いは、戦前から明白であった。ところがいざフタを空けてみると、前半の松任FCはザスパ相手に、ほぼ互角の戦いを見せる。
(中略)
初めて観戦するザスパの苦戦ぶりに、正直、私は失望した。あの前評判は、いったい何だったのだろうか。これではまるで「入浴剤を入れたTHE SPA(温泉)」ではないか。思い起こせばザスパは、初出場だった昨年の天皇杯市立船橋に敗れている。こんな調子で、本当にJ2でも戦えるのだろうか。いささか心配になってしまう。

ザスパ草津は「戦質主義」。草津温泉は「泉質主義」。草津温泉には水道水温泉はないので、ご安心めされよ(←これは本当)。ザスパが前半モタモタしているのは仕様です。というのは冗談で(←これはそうでもない)、通常は、ボランチの位置に入るキャプテン鳥居塚がゲームメイクを行い、右サイドの佐田聡太郎が攻撃に絡む。鳥居塚不在で公式戦に臨んだのは、今季ではカード累積で欠場した国士舘大戦だけだろう。攻撃のキーマンを二人も欠くと、さすがに厳しかったのだろうか。国士舘大相手では山口に加えてゲームメイクと正確なFK・CKを持つ後藤大輔の活躍で勝利。後藤大輔と岩本昌樹にはもっとチャンスをあげて下さい→植木監督。ああ、でも山口貴之の壁は高いな。

後半のザスパの猛攻を支えたのは、後半から3列目に下がって正確なアーリークロスを連発した山口であった。彼を起点に、放り込まれたボールはダイレクトで左右に振られ、松任ディフェンス陣を翻ろうする。前半、シンプルなクロスには対応できた彼らだったが、激しく左右に揺さぶられてしまうと、もうお手上げである。72分には、山口からのロングボールを「ナウリゾートホテル」寺田武史が左から折り返し、途中交代の同僚・宮川大輔が右足で軽く合わせて6−0。結局、これがファイナル・スコアとなった。

普段は鳥居塚のやっていることを山口が代わりに行ったのだと云えるし、JFLでは前線からのプレスにあってもキープ力ある山口と鳥居塚はまずボールを奪われない。普段ザスパのゲームを観戦している身では「やっぱり鳥居塚の不在はなかなか埋められないのか&松任FC戦を教訓にキャプテン不在時の攻守の組み立ても考えないとね」となった。宇都宮さん、試合の詳報をありがとうございました。

●「フィジカルの強さ」や「考えるスピード」だけでなく
試合後、ザスパ草津植木繁晴監督は、以下のようにゲームを振り返った。
「(天皇杯初勝利だが)ウチの目標はJのクラブと戦い、そして倒すこと。2回戦突破はその第一歩ととらえています。ただ前半は、とてもミスパスが多かったし、(パスの)受け手にも問題があった。その部分はハーフタイムで選手たちに指摘して、修正しました。後半直後にすぐ2点入ったから、楽にはなりましたけどね。
(山口のポジションについては)前半は前の方でプレーしていましたが、後半はひとつ下げて、そこから起点となるように指示しました。(サイドからの攻撃も増えたが)やはりクロスの質、それから中への入り方をもっと改善しないとね。来季、ウチがJに昇格するために、今の勢いがどれだけJのクラブに通用するのか、あるいは、どれだけ差があるのか、それを試すのが今回の天皇杯のテーマです」

そうですね。Jと戦いたいですね。ただ次の桃山学院大戦もお忘れなく。ウチはコンディション最低だったとはいえ、高校生に負けたこともあるのですから(汗)。

一方、背番号10を背負い、この試合でも何度か惜しいシュートを放っていた松任のMF西川は、JFLとの力の差を痛感していた。
「やっぱりフィジカルの強さ、それと、考えるスピードが違いましたね。ほかにも、いろいろ見えない部分での意識の差を感じました。でも、こうして上のレベルのチームと試合ができたので、この経験を通じてみんなの意識が変わっていくことが大事だと思います」
前述の通り西川は、このチームでは数少ない元Jリーガーである。水戸で1年プレーした後、いったんは現役生活に区切りをつけて地元・石川に帰郷。こうした高いレベルでの試合は5年ぶりだという。

こういうことはFC琉球でプレーする藤吉もサカダイのインタビューで述べていた。「ピンチだと思って全力で自陣に戻っても、地域リーグではその10回中2回くらいしか本当にピンチにならない。Jリーグでは10回中10回が本当にピンチになる。地域リーグに(悪い意味で)慣れてしまい、全力で戻ることを10回中2回しかしなくなっては、いつかレベルの高い相手と対戦したときには通用しなくなる。意識を高めるためにもJレベルの相手との試合をしたい」との主旨だった。Jを経験している西川もそう感じているのだろう。これはザスパ草津イレブンにも云えること。努々油断なきよう。

そんな彼に対して私は、松任FCのJFL昇格、さらには夢のまた夢であろうJリーグ入りの可能性について、どうしても尋ねてみたくなる。
「そうですね、ウチがザスパのように市民が運営するクラブになれれば……。もともと石川には星稜というサッカーの名門高校がありますし、国体でも去年は青年の部で、今年は少年の部でベスト4と、強くなってきていると思います。県の協会も今年から法人化しましたし……あとは僕らが、どれだけ結果を残せるか、ですね。とりあえずは北信越リーグ、そして来年の(天皇杯)県予選で頑張ります」

ちなみにザスパはこの試合の後半30分に地元石川県出身で星稜高校出身の控えGKの北一真くんが出場しました。良かった良かった。小島さんの後継者として日々「熱血!小島GK塾」で研鑽を積んでいる。期待しているぞ、未来の「ザスパの壁」。

思えば、ほんの3年前のザスパ(当時・リエゾン草津)は、群馬県2部で優勝したものの、後の植木監督が初めて草津町を視察したころには、選手が15名まで減少していたという。ちなみに草津町の人口は、松任市の1割にも満たない7700人。 それが今では、ファーストリテイリングユニクロ)をはじめとするオフィシャル・パートナーやアシスト・カンパニーにも恵まれ、Jリーグ入りを目前にしているのである。
松任FCが、そして石川県のサッカー関係者がザスパ草津から学ぶべきものは、決して「フィジカルの強さ」や「考えるスピード」だけではないように、私には思えてしまう。

Jを目指すサッカークラブとは、監督とサッカー選手と頭数揃えればよいのではなく、地域の熱意と、運営資金をより効果的に集めるスタッフも必要ということ。西川選手と松任FCにも是非がんばって欲しい。
追記。大変貴重なサポーターサイト「なっからザスパ」さん(http://www7.plala.or.jp/gunma/thespa/)の情報によると、松任FCサポは「進者往生極楽 退者無間地獄」の旗を揚げていたとか。さすが石川県だ!!

*1:こう書くと本当に温泉ホテルの接客カウンターのようだ。

*2:負けていれば愛媛FCとの勝ち点差はたった1にまで縮まるところだった。