沖縄県のスタジアム問題その1。FC琉球のスタジアム構想と那覇市奥武山公園の再開発。

上のエントリーと関連して。現在、沖縄ではJ加盟を目指してJFLを戦うFC琉球がありますが、沖縄県にはJ1、J2規格を満たすスタジアムがありません。詳しくは沖縄タイムス05年12月8日付、FC琉球特集記事より。
http://www.okinawatimes.co.jp/spe/fc20051208.html

●「沖縄発JFL FC琉球 Jへ始動」(下)参入条件 スタジアムどう確保 規模・芝…現状では不可能
来季、日本フットボールリーグ(JFL)を戦いながら、2007年のJ2を目指すFC琉球。Jリーグ入りはチーム戦力だけでなく、練習場の確保や地元との協力関係、経営状況、観客数などが問われる。その中で最も大きな壁となりそうなのがホームスタジアムの確保だ。
JFLの規約で観客席は5000人以上が必要。Jに上がると、J2で1万人以上、J1では1万5000人以上の座席を有するスタジアムが求められている。芝生席は観客席とみなされない。
県内でサッカーの試合を行う会場は陸上競技場など約30カ所。最も大きいのは7000人余を収容する沖縄市比屋根の県総合運動公園だ。今年も天皇杯1、2回戦ほか県高校サッカーの決勝戦などが行われた。

現在FC琉球JFLの試合会場として、沖縄市の西に隣接する北谷町の北谷陸上競技場や上記記事に触れられている沖縄市の県営陸上競技場も使用しています。それぞれのスタジアムについては「わかの観戦日記」さんの九州沖縄のスタジアムガイドで詳細な解説がされています。

だが、Jクラブの試合となると県内ではいずれも開催できない。
県総合運動公園の芝面は縦101メートル、横67メートル。Jリーグや天皇杯の試合運営要項に定められた縦108メートル、横71メートルを満たしていない。ピッチは整備された天然芝でゴールポストは丸型。さらに照明装置ほか、屋根付きベンチや電光掲示板のスコアボード、多くの付帯設備も求められる。
昨年琉球が初出場した天皇杯。3回戦で惜敗したが、勝てばJ1横浜との4回戦は同公園で開催する予定だった。だが事前視察した日本サッカー協会は「条件を満たしていない」と判断。勝ち進んでも沖縄での試合は実現不可能だった。

J規格よりは厳格でない天皇杯開催についても日本サッカー協会から難色が示されており、J規格を満たすにはかなりの改修が必要のようです。

琉球と県協会は来季、JFLのホームゲーム17試合を県総合運動公園を中心に開催する予定。今後、県や市町村に使用や改修要請を行う。他競技の大会も重なる可能性があるため、他協会との日程調整も必要だ。
それでも県協会の赤嶺清仁理事長は琉球のJFL昇格を県内サッカーのレベル向上の好機ととらえる。「年内に協会を法人化する。協会自身もレベルアップしたい」とし、競技場確保に主体的に取り組む考えだ。
(後略)

この記事から丸1年以上が経過していますが、具体的なスタジアム改修計画などは伝わってきていません。とは云っても改修だけでも巨額の資金が必要ですから、簡単なことではありませんよね。そんな中、FC琉球は昨年に独自の「スタジアム構想」を発表しています。琉球新報FC琉球サポートサイト、「FC琉球オンライン」の06年8月29日付と、沖縄タイムスの同日付より。
http://fc.ryukyushimpo.jp/modules/wordpress/2006/08/144.html

FC琉球、Jリーグ準加盟申請へ スタジアム構想も
今季から日本フットボールリーグ(JFL)に参戦しているFC琉球の野口必勝代表は28日、県庁で記者会見し、Jリーグ2部(J2)昇格の条件となるJリーグ準加盟クラブに、「2007年中の申請を目指す」と話した。申請に向け、約1万人を収容するサッカー専用ホームスタジアムの建設構想も発表した。
FC琉球は現在、北谷公園陸上競技場を中心にホームゲームを行っているが、県内にはJ2の基準を満たすスタジアムがない。
構想によると、スタジアム建設には約3万―3万3千平方メートルの敷地が必要だが、事業予算や建設予定地など、具体的な内容は未定。県全体をホームタウンとして、用地取得などに協力する自治体や企業を公募する。
東京を拠点に活動する建築家の原田真宏、原田麻魚両氏の協力で、披露された予想図は沖縄の「グスク」をイメージしたデザイン。外壁に琉球トラバーチンを使用するなど、沖縄らしさを強調。観客席とピッチの距離を縮め、より臨場感あふれる観戦を想定している。(後略)

http://www.okinawatimes.co.jp/day/200608291300_08.html

●1万人規模の競技場計画/FC琉球
(前略)収容人数1万人規模のサッカー専用スタジアム構想「琉球グスク」を発表した。野口必勝代表は「Jリーグ入りの条件で一番足りないのはスタジアム」と説明した上で「場所も予算も決まっていないが、目に見える形があれば理解を得やすいので先にモデルをつくった。夢を実現するために協力してほしい」と用地獲得などで県内自治体から公募する方針を示した。
会見には野口代表のほか、スタジアムの模型を設計した建築家の原田真宏氏(在東京)、クラブの石川康GMらが同席。野口代表は「チームの理念や沖縄の文化に合うようなスタジアムを造りたい」と依頼。原田氏は敷地面積約3万3000平方メートルに陸上競技のトラック部分を除いたピッチや収容人数1万人規模の客席を整備するスタジアムを設計。外壁は琉球トラバーチンをあしらい、地場の材料や技術を活用したい、という。
ロッカールームや本部席、審判室などゲーム運営の施設が入るメーンスタンドの建築物を除き、バックスタンドや両ゴール裏は盛り土などで公園や造園技術を使いコスト削減を図る考え。(後略)

主に沖縄タイムズの記事からは、単なる夢語りやこれに固執した計画ではなく、スタジアム問題を具体的に前進させるために作られた構想であることが判りますね。先に議論の叩き台、スタジアムモデルを作ることで予算を算出しやすくし、かつコスト削減の具体的な方法も盛り込まれています。よしんば新設ではなく改修になったとしても、それぞれの予算を比較検討できるわけですから、無意味ではありません。ただその後、気になるニュースが。これはワールドサッカープラスでの金子達仁の連載コラム「春夏シュート」の4月5日付より。
http://wsp.sponichi.co.jp/column/archives/2007/04/post_739.html

●選手、ファンのためにスタジアムを
(前略)帰国してすぐ、悲しくも情けない話を聞いた。将来のJリーグ昇格を目指すあるクラブが、サッカー専用スタジアムの建設を立ち上げようとしたところ、すぐさま他の競技団体から横やりが入ったというのだ。
「陸上トラックのついていないスタジアム建設などとんでもない」
野球にしか使用することのできない野球場の建設に反対の声はあがらずとも、サッカー専用競技場となるとこうした声がでてきてしまうのは、この国にサッカーというスポーツが染みていない証でもある。ただ、いまや西欧はもちろんのこと、経済的に後れをとっていた東欧でさえも、次々とサッカー専用スタジアムの建設が進んでいることを思うと、この国のスポーツの貧しさを痛感する。

欧州でサッカーが野球を押し退けて発達したわけでもなく、野球やサッカーではない別のスポーツがもっとも人気を博す国もあるので、ことさら日本のスポーツ文化を悲観しなくても良いと思うのですが、それはそれとして。ここで触れられているのはFC琉球のスタジアム構想だと思われます。同コラムの過去記事06年9月1日付より。

●沖縄にうれしい“サッカー界の甲子園”構想
(前略)そんな中、沖縄から小さな、しかしうれしいニュースが発信された。今年JFLに昇格したFC琉球が、来年度中をメドにしたJリーグ準加盟申請と、専用スタジアムの建設計画を発表したのである。
会見で発表された新スタジアムの概要は、スタンドの1列目がピッチレベルと同じ高さにあり、かつスタンドの傾斜が33度とかなりの勾(こう)配がつけられたもの。現時点での予定収容人員は1万人程度だが、最終的には倍以上のスケールに拡張することも可能だという。また、ゴール裏とバックスタンドを建築物ではなく盛り土で成形することで、大幅なコストダウンも図られている。外観は石壁で覆われ、沖縄のグスク(城)をイメージさせるものになっていた。
昨夏の高校総体那覇西が準優勝し、今年は川崎Fの我那覇が代表入りしたように、かつてサッカー不毛の地と呼ばれた沖縄にも、確実にサッカーの芽は育ってきている。そこで出てきた「世界一かっこいい1万人収容のスタジアムを」という構想。日本サッカー界にシンボルと言えるスタジアムがなく、また作ろうとする動きもないだけに、50年後、100年後、沖縄が日本サッカーの中心になっている可能性もゼロではない。新聞の片隅に載る沖縄発のニュースに、今後も注目していきたいと思う。

これまた別にサッカー界の甲子園やシンボルを目指したり求められたりはしていない思うのですが、それはそれで。ただ他スポーツ団体から異議が出ていると、ただでさえ難しい事柄ですが、容易には進みそうもありません。まあ異議が出たことすらも議論が前進しているとも云えるのですが。前のコラムで触れられている「野球場の建設には反対の声も上がらずとも」とは、同じ沖縄県那覇市内になる県営奥武山(おうのやま)公園の野球場の大規模改修工事のことだと思われます。簡単にまとまっているのはウィキペディア沖縄県営奥武山公園の項目から。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%96%E7%B8%84%E7%9C%8C%E5%96%B6%E5%A5%A5%E6%AD%A6%E5%B1%B1%E5%85%AC%E5%9C%92

沖縄県営奥武山公園 新野球場建設
現在ある県営奥武山野球場は2006年10月に撤去される予定で、2010年には沖縄の顔にふさわしいプロ野球公式戦ができる球場がお目見えする予定。総事業費は80億円を見込んでおり、収容人数は約3万人で屋内ブルペンや多目的屋内運動場を配置。周辺を野球関連ゾーンとして整備する予定である。ちなみに位置は現在とほぼ同じ位置を予定している。また、管轄を沖縄県から那覇市に移管し那覇市営の野球場とすることも決まっている。

奥武山公園は那覇市内に位置し、1959年に開園した沖縄初の運動公園だそうですが、野球場と陸上競技場など施設の老朽化が目立ち、その対策が迫られていました。その辺りの経緯は那覇市役所公式内の「市長コメント・奥武山公園野球場について」で詳細を読むことが出来ます。
http://www.city.naha.okinawa.jp/
http://www.city.naha.okinawa.jp/sisei/kaiken/y2004/m06/stuff/kaiken040624_k3_gaiyou.htm

●報告書概要
那覇市の中心部に位置する県立奥武山公園には、野球場・陸上競技場・プール・テニスコート・武道館等が配置されており、市民・県民のスポーツの振興に大きな役割を果たしている。また、空港や中心市街地の近くにあって、沖縄都市モノレールゆいレール」の2駅が隣接するなど、その恵まれた立地条件から多様なイベント等が開催され、多くの市民・県民に広く親しまれているところであります。
しかし、本公園内の施設の多くは建設からかなりの年月が経過しており、特に野球場や陸上競技場については老朽化が著しく、市民・県民をはじめ各関係団体からも早急な施設整備が強く求められています。(後略)
●整備について
基本計画報告書の内容といたしまして、野球場の建替えについては、県内における野球場のメッカとして、市民、県民が気軽にプレーでき、国際的な親善交流試合やプロ野球公式戦開催及びプロ野球キャンプ誘致もできる本格的な野球場の整備を目指しております。
位置は、ほぼ現在位置として、周辺を含め、野球場関連ゾーンとしての整備を図ることとしております。
新野球場の概要につきましては、地上4階建て、収容人数約3万人とし、屋外ブルペンのほか、関連施設として、プロ野球キャンプ時には屋内練習場として使用できる多目的屋内運動場を配置する計画としております。
●基本計画
基本計画では、基本構想の成果を受け、野球場の建て替え及び関連施設の整備に向けて、具体的な施設整備計画及び事業計画、管理運営計画等について検討。
その中で、新野球場については、国際交流等の場として、これまでの沖縄県の野球のメッカとして、高校野球等の本格的な野球競技の場として、またイベントの場、県民・市民に積極的に活用され、夢を与える場所としてとりまとめました。

主要な部分を抜き出しましたが、古くなった野球場を大規模改修してプロ野球開催とキャンプ誘致にも活かす、と云うことですね。別ページの事業計画の予算を見ると、野球場には67億5千万円が投入されるようです。これはこれで大変結構なことだと思うのですが、出来れば地元からJを目指すクラブもあるので、陸上競技場の方もJ規格に改修できないのかと考えてしまいますね。どの程度の改修をすればJ規格になるのか、そもそも用地は足りるているのかという問題、沖縄市北谷町でホームゲームを主催するFC琉球が、より南に位置する那覇市でホームスタを構える問題も併せてあるのですが。
こうして見ると、とにかくFC琉球のスタジアム構想が議論を進めている部分もありますが、具体的にはまだまだ先の長い問題のようです。ただ多くの草津サポが知っていることですが、群馬県のJ規格スタジアム問題を行政に具体的なレベルにまで推し進めさせて実現させたのは、JFL記録の観客動員という数字で表わせる「市民の盛り上がり」と、チーム自体がJFL前期を3位で折り返した「J加盟条件達成が実現可能」という成果でした。これは同じくJ規格スタジアム問題を抱えていた愛媛FCも、そして現在具体的な検討が行われている栃木SCも同様だと思います。そしてFC琉球の観客動員、「市民の盛り上がり」は既にかなりのものとなっています。これは沖縄タイムズのFC琉球特集記事、06年12月31日付より。
http://www.okinawatimes.co.jp/fcryukyu/spe/2006/1231.html

●熱きサポーターホーム動員2位 5万4213人
琉球がJFLで上位に輝いたのは観客動員数。北谷公園、糸満市の西崎、沖縄市の県総合運動公園で行われたホームゲーム17試合を5万4213人が観戦した。熊本県全体で支援し、6万4000人と最大観客数を誇ったロッソ熊本に続く入場者数となった。
(中略)
沖縄、熊本の熱狂がJFLの盛り上がりを支えた。琉球の1試合平均3189人はJ2水戸の動員数も超える。JFL事務局は「6勝11分け17敗という成績ながらコンスタントに多くの観戦者が試合会場に足を運び、チームに熱い声援を送った」と高く評価。ベストサポーター賞を贈った。
とりわけ終盤に客足は増えた。ホーム最終戦は4837人がスタンドを埋めた。サポーターは遠くアウエー会場にも足を運び、県人会や県外の琉球サポーターと一緒になり、時にはホームチームより多い応援を繰り広げた。

平均観客動員では既にJ準加盟の要件をクリアしています。チームの成績はJFL1年目の昨季は18チーム中14位、今季は前期11節まで終えて2勝2分7敗で勝ち点8の16位と苦しい状況です。それでもホーム開幕の横河武蔵野FC戦ではザスパの開幕戦より多い4213人、5月6日の佐川印刷SC戦では4627人を集め、ここまでのホーム5試合で平均2980人と昨季並みの観客を集めています。順位や準加盟の有無に関わらず多くの固定支持層を得ていること、沖縄で常時開催されるレベルの高いサッカーが沖縄のサッカーファンに求められていることが窺えますね。なんとかチームが上向きになり、より市民の盛り上がりが増すことを期待したいです。県都那覇市内にアクセス良好なスタジアム、沖縄市なりにFC琉球構想の「沖縄グスク」スタジアムと、J規格のスタジアムが2つ出来れば最高なんですがねえ。カネタツさんではありませんが、沖縄とFC琉球の夢が実現する日が一日も早く来ることを願います。敷島のJ規格改修が実現され、その後にバックスタンドが出来ただけでも相当うれしかったので、FC琉球サポーターの方々には、それ以上の喜びがあるだろうと思えますからね。

追記。アップした後にスタジアムに関して動きがありました。沖縄タイムズ5月17日付より。なにげにタイムリーなエントリーになりました。
http://www.okinawatimes.co.jp/day/200705171300_08.html

●サッカー協会スタジアム建設要請へ/奥武山競技場跡
県サッカー協会サッカー施設等ワーキンググループ(座長・真栄城勉県協会理事)は16日までに、奥武山運動公園陸上競技場跡地の活用として、Jリーグなどプロチームの誘致を想定した「おうのやまの杜サッカースタジアム整備計画」(第1次案)をまとめた。同協会の伊江朝睦会長らは21日、県を訪れ仲井真弘多知事にスタジアム建設を要請する。同ワーキンググループは1月30日に設置。3月30日まで、計4回の話し合いを経て、整備計画案を作成した。今後は、他県のサッカースタジアム視察などを行い、建設具現化に向けて活動していく。

先に触れた那覇市内の奥武山運動公園、陸上競技場跡地(既に跡地なんですね)のJ規格スタジアム新設要望を知事に提出。沖縄県サッカー協会の動きですか。今年に入ってから会合を重ねていたと。

同整備計画では、スタジアムの規模はプロチームの試合や日本代表の合宿を想定し、2万人以上の観客席、3分の2以上に屋根を付けることを提案。
また、プレス席やVIP席、特別支援を要する障害者席を設けるなど、「Jリーグの定めた基準をクリアーしたスタジアムを整備しなければならない」としている。
場所を同陸上競技場跡地とした理由については、用地買収の費用が掛からないことや、モノレール駅、那覇空港と近いことなどの交通の利便性などを挙げる。(後略)

しかもJ1規格。記事にあるとおり用地買収の必要がなく、すでに建物を取り壊した跡地を活用する点でその分の費用は要らないわけですよね。県都那覇市内にある点も魅力的です。現在のFC琉球を支える沖縄市北谷町からは離れてしまう問題はありますが、クラブとサポの努力だけでは実現できない巨費の案件ですから、とりあえずJ規格スタが実現に向けて動き出しそうな朗報です。これからも注目していきたいと思います。

●参考リンク 「わかの観戦日記」:九州沖縄のスタジアム
http://waka77.fc2web.com/studium/studium-8.htm
●参考リンク FC琉球公式:城GUSUKU 〜 FC琉球ドリームスタジアム構想
http://www.fcryukyu.com/stadium/stadium.php
●参考リンク マピオン沖縄県の地図
http://www.mapion.co.jp/html/map/web/admi47.html
●参考書籍 Jリーグクラブをつくろう:FC琉球ほか多数のJリーグを目指すクラブが取材・紹介されています。

Jリーグクラブをつくろう!

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