J2第26節サガン鳥栖戦。チーム状況がもたらすリスク承知の戦い。

SH772007-07-08

ふがいない愛媛戦に続いての無得点での敗北。結局、第2クールは1勝どまりの苦闘の時期となってしまいましたね。ただこの試合、内容については久々に先発した吉岡聡と負傷復帰した佐田聡太郎で組んだ「ダブル聡サイドバック」(安直な名前だなあ)の攻撃力、本来の位置である右SHに戻れた鳥居塚伸人のパフォーマンスの復調など好材料もあり、佐田の復帰でようやく今季スタンダードの戦い方が出来た試合でした。具体的には、DFはラインを押し上げて全体をコンパクトに保ち、DMFが左右に配球してゲームを組み立て、そこに両SHとSBが早いパス回しからゴール前にクロスを上げる。そのクロスにFWと逆サイドのSHやDMFも詰めて走るというものです。そしてクロス攻撃のフィニッシャーとして必要なFW氏原良二を負傷で欠いたものの、両サイドからのクロス攻撃をシュートにつなげる工夫も見えました(詳しくは後述)。どうしようもない愛媛戦はもちろん、勝ち点をとれたものの内容の悪い試合に比べれば、攻めの意図もキチンと見える試合になっていましたし、やはり今季やってきたことはそれなりに貯金になっていることを感じました。
しかし、草津本来の戦い方は、早いパス回しと縦に速い攻撃が特徴である鳥栖相手には相性が悪いんですよね。事実そういう展開になってしまいました。鳥栖の攻撃を渋滞させる、スペースを潰していく守勢の組み立てのほうが勝ち点ゲットには近かったのかもしれませんが、前節の敗戦を受けて植木さんは選手たちに勝つ姿勢を要求し、そういう組み立てを講じたのだと思われます。守勢で勝ち点を狙うのではなく、サポの心情を汲むような戦い方を要求してくれたことはうれしかったですね。
ただ、だらしのない愛媛戦(日本語はダメ表現も豊富だなあ)に続く敗戦であり、このクールの戦績には不満も多くあり、選手達や試合結果には憤りも感じます。が、その気持ちに任せて叩いているだけではチームは強くならないとも考えます。苦しみながらもなんとかしていこうと、もがいている選手もいますし、そういう選手の出来ている部分には拍手と声援をしていかないと。それがあんまり多くなくても。自分もサポーターのはしくれですしね。愛媛戦は、選手達に簡単に忘れられては困る試合ですが、同時に選手もサポも囚われ続けてもダメなのではないでしょうか。長くなりましたが、まずはメンバーと結果をJ'sGOALより。
http://www.jsgoal.jp/result/20070200030520070707_detail.html

●2007 J2第26節(7月7日/鳥栖/5,623人)
サガン鳥栖 2−0 ザスパ草津
得点 44分:藤田祥史鳥栖) 46分:藤田祥史鳥栖)
警告 37分:村主博正鳥栖) 65分:浅井俊光鳥栖)
交代 49分:村主博正尹晶煥鳥栖) 52分:石田博行廣瀬浩二鳥栖)
   56分:秋葉忠宏桑原剛草津) 60分:山崎渡里見仁義草津)
   85分:山城純也山口貴之鳥栖
●J2第26節vsサガン鳥栖 ザスパ草津スターティングメンバー
GK:1本田征治 
DF:7 佐田聡太郎  23藤井大輔  5チカ(C) 24吉岡聡 
MF:6鳥居塚伸人 17秋葉忠宏 18櫻田和樹 8山崎渡 
FW:20松浦宏治 9高田保則 
リザーブメンバー
GK:22北一真 DF:3尾本敬 
MF:30松下祐樹 15桑原剛 27里見仁義
●キックオフフォーメーション(4−4−2・ドイスボランチ
−−高田−−松浦−−:
山崎−−−−−鳥居塚:里見・桑原
−−櫻田−−秋葉−−:松下
吉岡−−−−−−佐田:尾本
−−チカ−−藤井−−:
−−−−本田−−−−:北

すでに触れていますが、右SB佐田聡太郎が負傷復帰し、久々に左SB吉岡聡が先発して攻撃的な配置となりました。またこれによって鳥居塚がSHに戻り、櫻田もDMFに。FW氏原の負傷欠場は痛いですが、ほぼ今季の基本的な並びとなりました。リザーブには前節の動きのよさが評価されてか、オレの里見仁義が連続ベンチ入り。他には桑原、松下、尾本、北がベンチに座り、リザーブFWはゼロ。草津の攻撃はサイドからの組み立てが多いので、そのクロスに一番あわせられる氏原の不在は気掛かりでしたが、他のFWではなく別の方法で埋めようとする試合になりました。試合の流れもJ's GOALレポートより・・・といつもどおりいきたいのですが、鳥栖担当はあまり試合の流れを追わないので、自力で展開を。
●開始1分で草津がファーストシュート、草津本来の戦い方が発揮される。
鳥栖のキックオフで始まり、共にロングボールを送りあう形でスタート。開始30秒でチカが前線の大きくフィード、DFのリフレクトを鳥居塚が拾い、中央へ。高田保則はこれをスルーして山崎が左サイドでボールを収めます。高い位置でタメを作り、攻め上がってきた吉岡へ。吉岡は縦のドリブルで相手をひきつけてから下がってきた山崎へ戻し、山崎はダイレクトで中央に上がってきた秋葉へ。秋葉からふたたび右サイドを上がってきた佐田へ。佐田もドリブルで相手をひきつけつつ、佐田の後方へ流れてパスコースを作っていた秋葉へ戻します。そして秋葉から中央の高田へダイレクト。高田はポストプレーで攻めあがっていた櫻田へ落とします。そして櫻田はフリーでシュート、わずかに枠を逸れてしまいました。このシュートが1分1秒。約30秒の間に左右に素早くボールを振り、その間にゴール前に人数を集めて、最後はバイタルエリアに進入してきた櫻田がフリーでフィニッシュ。鳥栖も人数をかけて守っていましたが、この間は草津の選手のみがボールに触り、フィニッシュまで作りました。今季の草津の目指すサッカーが早速できたと思います。それには運動量ある両SB、DMFも押し上げて攻撃の厚みが必須であることも窺わせました。やっぱり草津は「走撃」しないとゲームにならないんですよね。さらに1分45秒には、松浦、高田、山崎の早いショートパスだけで中央突破、ペナルティエリアにまでボールを運びますが、シュートまではいけませんでした。

●高いDFライン保持が大ピンチを招く
対する鳥栖もスピードある左サイドから攻撃を開始し、徐々に草津陣内でゲームを作っていきます。3分30秒にバイタルエリアでボールを収めた山城から、FW藤田にスルーパス。藤田はやや高い位置どりのDFラインの裏、チカの後ろを完全にとり、飛び出したGK本田の股を抜いてボールをゴールに流します。しかしここは佐田が追いついて必死のクリア。股抜きのコントロールを意識してか、ボールスピードがないことも幸いしました。山城に寄せていた秋葉は藤田へのパスコースは切っていましたが、藤田がスペースでもらう鋭い飛び出しをしたためにスルーパスを許してしまいました。チカの斜め後ろの死角から飛び込まれたために反応も遅れましたね。藤田&山城のナイスプレーという他ありません。
しかしここまで、鳥栖もサイドとバイタルエリアのパス回しでゲームを作り、前を向いて走るFWへ縦パスを送って攻撃を組み立てる形なのが判りました。こうなるとバイタルエリアのケアとDFラインの位置取りが肝要なのですが、草津も攻勢を優先しているため、バイタルエリアの守備に人数がかけられず、ラインも高く保持されるので、かなりリスキーであることも判明しました。どちらが自分たちの組み立てで先制するか。勝負の分かれ目がハッキリした試合でした。この後、10分くらいまでは鳥栖の早いパス回しと大きなサイドチェンジ、縦への突破に押される展開となりました。草津もこういうサッカーがしたいのですが、まだまだパス回しが遅く、相手に守備を整わせてしまうんですよね。11分には草津が遠い位置ながらFKを得て、吉岡がキック。正確にチカに合わせて、チカが競ったボールは前にこぼれて、これを高田がシュート。角度がない位置からでしたが、枠に飛んだのですがGKがファインセーブ。ここから3本連続でCKをとって攻める草津でしたが、最後のCKでファーに飛び込んだチカがわずかに合わず、先制できませんでした。このセットプレーの中のチャンスで1点入っていれば、また違う展開の試合になったと思われるだけに残念でしたね。

●クロスを待つだけのセカンドストライカー、攻撃も守備も他選手にしわ寄せが
15分すぎくらいからは、お互いが持ち味を活かした攻撃で一進一退の展開となりますが、草津はポゼッションからクロスを中央に送る攻撃を意図しますが、ターゲットとなる氏原が不在。ここを打開するために、いつもと違うアレンジがありました。それは草津の攻撃時に、左SH山崎が中央に流れてセカンドストライカーとなるべくペナルティエリア中央やや後方に位置取り、FW高田が左サイドに入って攻撃を組み立てる形です。山崎のクロスはほとんど期待できないので、いいアイデアだと思いましたが、山崎は一度中央に陣取ると攻撃に絡まず、ほぼ死兵に。チームオーダーだと思いますが、DFを背負っている高田にボールを預け、その周囲に味方もパスコースもない状態なのに、さっさ追い越して中央のポジションに向かうところなど、無責任ともとれるプレーが目立ちました。またそのフォローに入る櫻田も上がり気味になるので、鳥栖の選手がなだれ込むバイタルエリアを秋葉一人が支えることになり、またサイドの守備では山崎の不在で数的不利を余儀なくされた吉岡も割をくう形になってしまいました。11対11の同数で行っているサッカーは、ある意味あの手この手で数的優位をつくることの応酬ですが、草津は一人まったく攻守に絡まない選手を自ら作ることになってしまい、この影響で立ち上がりに見せた両サイドバックも攻めあがるワイドな展開も出来なくなり、徐々に主導権を鳥栖に渡していきます。

●運にも助けられた無失点も前半ロスタイムにミスから先制を許し、後半立ち上がりにもミスから追加点で自滅
そして30分過ぎからは防戦一方の展開となり、38分にはセットプレーからチャンスを作りましたが、ここも得点ならず。42分には突破を許し、ポストに救われるピンチに。さらに前半ロスタイム、うまく守れたはずの状況でしたが、櫻田が横パスに反応しきれずバイタルエリアでボールを奪われ、吉岡もかわされて、クロスを中央に折り返されて、藤田に先制を許しました。また後半立ち上がり2分には、草津から見て左サイドから逆サイドに折り返され、そのシュートはGK本田が防いだものの、こぼれ球をこれも藤田に押し込まれました。
ここで残念なのが、秋葉がサイドを変えられる前にボールホルダーにプレスにいっているのですが、そのプレーをサイドに張っていた山崎がボールウォッチャーになってヒトもスペースも見ない中途半端な位置をとっていたことですね。その彼の裏をとった選手に簡単にパスを通され、そこに山崎は寄せるでもなく併走し、そこから追加点に繋がるクロスを送られたことです。1点目も2点目もわずかなミスでしかないのですが、どうして重要な局面や時間帯でもう少しプレーをやり切れないのか、走れないのか残念だとしか云い様がありません。

●桑原、里見を投入するも、クロス攻撃だけではターゲットが不在。
後半早々に追加点をとられたことで、攻撃手な選手を投入するものの「隠しターゲット」だった山崎の代わりを務める選手もおらず、決してハイボールの競り合いに強いわけではない松浦をターゲットにクロスを送る攻撃が続いてしまい、効果的な攻撃は行えなくなってしまいました。里見もロングスローのみならず鋭い飛び出しからシュートを放ち、桑原もドリブルでリズムをつくって奮闘しただけに、彼らが先発していたら左サイドから桑原がクロスを上げたり、里見がセカンドストライカーとして攻撃に絡んだり、少なくとも11人対11人で戦えたのではないかと思ってしまいました。
また松浦は、クロスへの競り合いでなかなか勝てずとも、DFライン裏への飛び出しで再三抜け出ていたので、ターゲットのいないクロス攻撃よりも彼へのスルーパスを増やしても面白かったと思います。一度うまく通り、中央へ折り返すもゴールラインを割るシーンがありましたが、あれが一番後半で可能性がありましたしね。鳥栖も攻撃的な選手を投入して主導権を握ったまま追加点を狙う作戦でしたが、スコアは動かず2−0で終了。
本来、鳥栖に対してはもう少し守りの意識を強く、バイタルエリアでスピード系のFW達にスペースを与えないサッカーをしたほうが戦えるのだと思いますが、愛媛戦のボロ負けの次の試合で守備基調のサッカーをさせたくなかったのでしょうね。危険な相手に果敢に攻めのサッカーで向かった植木さんとイレブンは、サポの気持ちを汲みとるような姿勢で臨んでくれたのは良かったと思いますが、チームオーダーで1人攻守に絡まない死兵を作ってしまったことと、鳥栖に攻守の切り替えで勝てなかったことが敗因になってしまいました。あのワーストゲームの後にイキナリ良くはならないでしょうし、そこは仕方ないと思います。佐田の復帰や個々の選手が開幕当時のポジションでプレーできたこともあり、愛媛戦よりも格段にマシなゲームでした。ただ、厳しい云い方をすれば、この試合で愛媛戦の失態を取り戻そうとイレブンが必死になることはある程度予想していたことで(同じようにふがいなければ今季終了モノ)、肝心なのは次のホームゲームの湘南ベルマーレ戦だと思っています。鳥栖である程度ガンバれたのでまた一安心してしまうか、さらに勝利を求めて走るか。今季後半戦をただただ消化していくだけのシーズンにしてしまうか、まだ順位を上げるよう戦えるのか。次の試合はそこに注目したいと思います。